2013/09/11

アルバムレビュー:AM/Arctic Monkeys

9月4日に日本先行リリースされたArctic Monkeysの5thアルバム:AMを聴いている。

作品を重ねるごとに新たな一面を見せる彼らであるが、今作は、過去の作品に近い雰囲気を感じさせる曲がいくつか見られた。
音の印象や雰囲気の傾向は、Humbag(3rd)に近い(Humbag、世間的な評価はあまり高くないそうですね。個人的には好きなアルバムですが)。
そして、AlexのサイドプロジェクトであるThe Last Shadow Puppets、さらにはAlexのソロ作品であるSubmarineを思わせる一面もある。

本作を聴いてまず印象に残ったのは、リズム・コーラスの存在感と曲の幅広さ。
他アーティストが演奏に参加したりコーラスが多用されていたりと、曲の構成は以前に比べて複雑化している。
本作は、ライブでの再現や実際の演奏というよりも、アルバムを聴くことに重点を置いて作られた作品であると感じた。

一言で言うなら、アコースティックでどこか開放的であった前作と違い、今作はエレクトリックで内向的。
Suck It And Seeに見られたピーカンの砂漠のような明るいイメージはなく、全体的に暗い、夜の印象。
アルバムにコーラスとして参加しているQueens Of Stone AgeのJosh Hommeは「午前0時以降に聴くべき、セクシーな作品」といった発言をしているが、まさにそういった雰囲気を感じさせる。
一聴してすぐに好きになるようなアルバムではないが、じっくり聴き込むと、Arctic Monkeysのヒストリーの1ページを刻むしっかりとした存在感がある。
いわゆるスルメというやつである。




アルバムごとに新しくなっていたバンドのロゴは、前作と同じものであった(変わると思っていたのだけれど)。

以下に、第一印象からのアルバムレビューを書く。

#1:Do I Wanna Know?
1曲目は、先行リリースのシングル:Do I Wanna Know?から始まる。
Arctic Monkeysのアルバム中、最もスローテンポな幕開けである。
この曲に限らず、このアルバムには別れた恋人(または上手くいっていない恋人)に対する感情を歌った曲が多い。どうしてもAlexと、4年程付き合っていたAlexa Chungとの破局について考えてしまう。
#2:R U Mine?
シングル・ヴァージョンとは違う新たなアレンジ。アルバム収録にあたり再録はされていないようだが、ドラムの音量が大きくなっており、全体的にはっきりとした音質にリマスタリングされている。収録曲中、最もハードな曲。
#3:One For The Road
印象的なコーラスから始まる曲。#9:Why'd You Only Call Me When You're High?のように、真夜中から早朝にかけての時間帯を思わせる。
#4:Arabella
不気味なイントロに逆回転のギター音がまず、耳につく。イントロの重厚で怪しいメロディが格好いい。切れ味の良いサビもメリハリがあって良い。
#5:I Want It All
リズミカルでアップテンポな曲。ギターのメロディを聴いて、どこかで聴いたことがある…とずっとひっかかっていたのだが、音階こそ違えど、RadioheadのBonesという曲(アルバム:The Bendsの5曲目)のギターと似ている(サビのバックで流れているリードギターのメロディ)。歌詞中、The Rolling Stonesの2000 Light Years From Homeという曲が登場する。
#6:No.1 Party Anthem
Humbug好きにはたまらない1曲であろう。Secret DoorやCornerstoneに近い雰囲気を持っている。どこかしら、SmithWesternsのような曲。
#7:Mad Sounds
タイトルのとおり、まどろっこしい曲である。ゆっくりとした曲の雰囲気から考えると、アルバム中の位置づけは、前作でいうところの#11:Suck It And Seeか。これらを比較するだけで、本作が前作に比べていかにスローな作品であるかということが分かる。
#8:Fireside
Last Shadow Puppetsを感じさせる。短く刻むギターにラテンっぽいメロディ。どこか哀愁を感じさせる、徐々に上がっていく展開も良い。アルバムを聴いて、最初に好きになった曲である。
#9:Why'd You Only Call Me When You're High?
扱っている歌詞の内容もメロディも、アルバム中最も”今らしい”曲。時代を逆行するバンドのルックスとは違い、往年のArctic Monkeysらしい1曲であると感じた。
#10:Snap Out Of It
テンポよく、規則正しく刻まれるリズムにより規則正しく進んでいく、比較的はっきりとした曲。コーラスは多用されている。
#11:Knee Socks
凝った作りで、曲の展開は複雑に変化する。エフェクトをかけたコーラスも新しい。
#12:I Wanna Be Yours
スローな曲で幕を開け、スローな曲で幕を閉じる本作。
前半のハードな雰囲気とは打って変わって、どこか哀愁を漂わせる曲である。
#13:2013
日本盤に収録されたボーナストラック。アルバム前半のハードな曲達と同じグループに属するであろう1曲。「ボーナストラックくらい、アップテンポな曲を!」と思って少し期待していたのだが、今の彼らは、そういう曲は作らないようである。


バンドにとって5枚目のアルバムとなる本作。
例えばストロークスでいうと5枚目はComedown Machineに当たるのだが、それと比較してどうだろう。
真新しさがあるとはいえず、鉄板のヒットソングのように突き抜けた曲が収録されているわけでもない。既存のArctic Monkeysを期待して聴くと、間違いなく消化不良を起こしてしまうだろう。

ある意味、不満を感じるほどに、安定している。
でも逆に、この安定感こそがArctic Monkeysの凄さであると思う。
斜め上の方向を行く斬新さや思い切った音楽性の変化はないが、ゆるやかに、でも着実に、バンドとしての個性は強固になっている。
ルックスも含めて独自のスタイルを突き通す姿は、彼らに心酔するファンにとって心強い。

驚いたのが、Alex Turnerはまだ27歳であるということ。
この若さにしてこの円熟っぷり。

バンドが更なる変化を遂げ、これぞArctic Monkeysというものを築きあげていくところを、今後も見守っていきたいと思った次第である。