2013/04/18
アルバムレビュー:Comedown Machine/The Strokes
Comedown Machine、傑作である。
リリースされてからというもの、安定して聴き続けている。
本作と同じ傾向を持つ前作:Anglesは、当初、真新しさと意外性によって興味を引くものであったが、長い期間に渡って聴き続けられるものではなかった。
特に気に入った#2:Under Cover of Darknessは何度も繰り返し聴いたが、しばらく経つとそれにも飽きてしまい、その後、アルバムを聴こうとする機会はあまりなかった。
バンドのイメージを覆す音楽性に革新性こそ感じたが、アルバム全体としてまとまりがなく、その完成度は一つの作品として長い間寄り添うことには耐えられなかったのだ(まとまりのない点は、Anglesというタイトルから考えると批判すべきところではないかもしれないが)。
今作はどうであろう。
以前書いたように、パッケージングは至ってシンプルであり、新しく撮られたPVもないため、アルバムに対する視覚的なイメージはジャケットに用いられている赤い色くらい浮かばない。
しかし、それが逆に曲ごとへの関心を際立たせるのか、全体としての印象は悪くない。
逆説的であるが、曲ごとの繋がりがない故に作品としてうまくまとまっているとも感じる。
アルバムを通して収録された順に聴くようなものでもないだろうが、なぜかシャッフルする気になれない。
言わずもがな、ストロークスの他のアルバムと合わせて聴こうという気にもならない。
それくらい、一つの作品としての存在感が大きいと感じた。
バンドのメンバーが各々のスタイルを持って曲を作り始めた前作からの手法が、ようやく身を結んだといったところか。
曲ごとがバラバラでうまくまとまらなかった前作とは違い、本作はそういった手法をバンドの色としてうまく昇華できている。
各曲のレビューを書く。
#1:Tap Out
曲の始まりに挿入されるギターの音が、まず、1stアルバム:Is This It?の一曲目:Is This Itを思わせる。無機質に、忙しなく鳴らされるギターのリズムに、緩慢なメロディ。当初、背景には不穏な雰囲気の電子音が流れているのだが、サビの前でそれらがすっと消え、急に音がクリアになるところが気に入っている。落ち着いていてシンプルな曲のようでありながら、よく聴くと凝ったつくりをしていることが分かる。
#2:All The Time
意外性のある一曲目に対して、安定的でストロークスらしい曲。懐古的である。イントロのギターやサビのメロディなど、旧来のストロークスを思わせる。アルバムの先行シングルでありながら、良い意味で際立った存在感がない。
#3:One Way Trigger
テンポの良いラテンテイストの曲。ささやくようにスッと入ってくるイントロが、この曲のスケール感を大きく感じさせる。初めて聴いたときは癖の強い曲だと思ったが、何度も聴いているうちに馴染んできた。初回のサビの前、少し間を開けてカチカチと鳴らすところが駆動する機械のようであり気に入っている。Julian Casablancasの公式サイトにアップされていたイメージ画像(画像のリンクは切れているが、バンドの公式サイトにて閲覧可能)のごとく、荒野を駆け抜ける少しレトロなイメージ。
#4:Welcome To Japan
怪しげな印象に一聴してはまった曲。Japanと聞いて、電飾の盛んな新宿あたりの繁華街をイメージした(喧騒ではなく、あくまで映像として)。サビのメロディやジュリアンの囁き(Oh welcome to Japan! Scuba-dancing! Touch down!)は癖になる。
#5:80's Comedown Machine
アルバム中最もスローなテンポの曲。深く潜っているかのような感触がある。雰囲気は3rdアルバムの#7:Ask Me Anythigに似ている(聴き比べてみると、こちらの曲の方が余程複雑な造りをしており、図らずもバンドの変化を感じることとなった。3rdアルバムはゴテゴテしたイメージであったのだが)。
#6:50/50
アップテンポで格好いい。急かすようなギターと、合いの手のように少し遅れて入るギターとの合わせが心地よい。曲の雰囲気は1stの9曲目:New York City Copsに近いものがある。
#7:Slow Animals
シックな雰囲気の曲。全体的に暗いトーンだが、どこかスタイリッシュで格好いい。
#8:Partners In Crime
ポップで、これまでのストロークスにはなかった新たなテイストの曲。ぴょんぴょん飛び跳ねるようなメロディが好きで、アルバム中最も気に入っている。こういった曲に出会えると、アルバムを手にとって良かったと心から思う。
#9:Chances
普段通り男性的なボーカルと、女性的なボーカルとが混在しており、不思議な雰囲気を持つ。落ち着いて聴ける曲である。2:57以降、曲の雰囲気が変わり終わるところが、Keaneの2ndの雰囲気に似ていると思った。
#10:Happy Ending
オーソドックスでストロークスらしい曲である。この曲が唐突に終わった後、#11がエンドロールのように流れ始める。
#11:Call It Fate, Call It Karma
古いフィルムに出てくる女性ボーカルのような雰囲気。初めはちゃんと聴いていなかったのだけれど、聴いてみると意外といい曲。アルバムの終わり方としては何とも湿っぽく、余韻が残る。
あらためて全曲聴いてみると、一見シンプルであり、全体的にレトロなテイストや外したテイストの曲が多いにも関わらず、細部に至るまでとても良く作りこまれていることが分かる。
こういった傾向は3rd以前には見られなかったものである。
1st、2ndはもはやストロークスとしてのクラシックであり、過去の作品として捉えるべきではないか。
別の記事でも書いたとおり、ストロークスらしさは変遷しており、それは否定されるべきものではない。
古いストロークスに魅力を感じ、もう一度あの頃の音楽を、と考えるファンは多いだろうが、現状のストロークスをみる限りそれは御門違いというものだろう。
音楽の嗜好というものは日々多様化・拡大しているため、一つのバンドが特定の傾向に縛られ続けることは、バンド自体を殺すことになりはしないか。
変わりゆく環境の中で確固とした個性を守り続けることに価値がないとはいわないが、少なくともストロークスにとっては、それがベストだとは思えない。
旧来のものを守り続けることが、彼らの求めるストロークスらしさではないだろう。
数多の憶測と共にバンドの解散が囁かれているが、本作を聴いて、これからもストロークスとしての変化を見ていたいと強く思った次第である。
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私も「ファースト良かったなぁ…」というクチだったんですが、このアルバムかなり良いですよね。こういう変化は嬉しいです。
返信削除世間の評判はどうかなと思って「ストロークス レビューで」検索してみたらこのページにたどり着きました。記事も興味深く読ませて頂きましたが、なるほどと思えて面白かったです。
個人的には、例えて言うならソニックユースの後期とかHere We Go Magicのアルバム辺りもそうなんですが、大人でも気恥ずかしさもなく(オヤジなもんで…)心地よく聴けるロックという感じで、かなり気に入ってます。
>>shin-gさん
削除コメントありがとうございます。
この作品は、新しいストロークスを見せながら、これまでの彼らを逸脱していないという点で、支持できるものだと感じています。
いわば、順当な逸脱とでも言いましょうか。
Sonic Youthのアルバムについては浅学につき存じあげておりませんが、折をみて聴いてみたいと思います。