2012/11/23

音楽のキャパシティについて/Death Cab For Cutie

いわゆるAlternative Rockという括りは、Wikipediaの記事を読めばわかるとおり非常に曖昧なものであるが、自分にとってのAlternative Rockとの出会いは、米国はシアトルのバンド、Death Cab For Cutieであった(このページにバンドの名前が載っているので、彼らをAlternative Rockに属するバンドと考えていいだろう)。

Death Cab For Cutieは、今では最も好きなバンドの一つであり、2009年に来日した際には新木場のStudio Coastにも足を運んだ。
しかし、初めて彼らの音楽を聴いた当時の印象は、”退屈な音楽”であった。


最初に手に取ったのは5thアルバム:Plans(2005年)であり、新宿のタワーレコードで試聴したそのアルバムを、購入しようかどうか一頻り迷ったあげく、Alternative Rockの世界へと足を踏み入れる決意をしたのである。

背中を押したのは、#2:Soul Meets Bodyであった。
Alternative Rockの世界に…云々と言っておいて何だが、こういうキャッチーな曲が一つもなかったら、当時の自分がアルバムを手にとることはなかったかもしれない。

本作より、アルバムのリリース元がBarsuk Records(ジャケットに描かれた犬のアイコンが印象に残っている)からAtlantic Recordsへと変わっているが、各曲に漂う澄んだ空気感や、前作までとは毛色の違う統制された雰囲気は、やはりメジャーデビューの為せる技であろうか(アルバムのプロデュースは、前作と同じくバンドのギタリスト:Chris Wallaである)。
同じ傾向は次作である6th:Narrow Stairsにも引き継がれるが、個人的にはこの2作がとても好きである。
昨年リリースされた7th:Codes & Keys(2011年)はまた違った傾向の作品であるが、個人的な評価はそれ程高くはない。


Plansと並行して、彼らの2nd:We Have The Facts And We're Voting Yes(2000年)、3rd:The Photo Album(2001年)も聴いていたが、その独特の暗さ(表現のしようはいくらでもあるだろうが、当時の自分にとっては、ひたすら陰鬱な音楽という印象であった)に、聴くたびに憂鬱な気分になっていたものである。
しかしまあ、これが所謂オルタナというやつなんだろう…などと考えており、懲りもせずに何度も聴き続けた結果、ここに1人のDeath Cab For Cutieファンが生まれることとなった。

ちなみに2nd、3rdに続く作品としてリリースされた4thアルバム:Transatranticism(2003年)で、バンドは信じられないくらいの変化を遂げている。
各曲に存在感があり、また多様性にも富んでおり、キャッチーでありながらもバンドらしさが失われておらず、非常に完成度の高いアルバムである。


音楽に対するキャパシティというのは面白いもので、多種多様な音楽を聴いていくなかで、知らず知らずのうちに広がっていくものである。
繰り返し聴き続けることで、自分の嗜好が明らかに変化をしていることが分かる。これまで耳に馴染まなかったバンドの曲も、目の覚めるような名曲に聴こえる。
そうやって、少しずつお気に入りは増えてきた。

音楽との付き合い方は人それぞれであるけれども、ある種、荒療治のようなかたちで無理して新しいジャンルの音楽を聴き続けることだって、キャパシティを広げるために、時には必要なことなのだと思う。

http://www.deathcabforcutie.com/

2012/11/18

個人的に思い入れの強いバンド/Keane



ボーカル&キーボード&ドラムの3人組による、ギターレスの3ピースバンドという特異な組み合わせでデビューしたKeane。
2012年には通算5枚目のアルバムであるStrangelandをリリースし、先日、渋谷AXにて行われたライブもなかなかの盛況であったとのことである。

個人的には、初めて購入した洋楽のCDが彼らの1stアルバム:Hopes And Fearsであったこともあり、バンドに対する思い入れは強い。

出会いは、たまたま聴いていたラジオで流れたEverybody's Changingの一節「So little time, try to understand that I'm」を聴いたことであった(Glastonbury festivalsの特集にて、ニューカマーの一人として紹介されていたのだ)。
聴いた瞬間に"体中に鮮烈な衝撃が走った"…とかそういった類の特別な経験ではなかったが、まだ高校生で、背伸びをして努めて洋楽を聴こうとしていた当時の自分に、そのメロディが何かを感じ取らせたことはよく覚えている。
直後に発売したデビューアルバムを、あまり潤沢とは言えない小遣いから捻出したお金で購入した。

彼らのアルバムの中からベストを選べと言われたら、自分は間違いなく2ndアルバム:Under the Iron Sea(邦題:アンダー・ザ・アイアンシー〜深海〜)を挙げる。

Keaneは、デビュー当初から美メロやピアノロックといった言葉で形容され、曲の持つ美しさによって注目を集めていた。
実際、メロディは美しく、1stアルバムは全曲"聴ける"アルバムであった(凡庸なアルバムには必ず1、2曲は退屈な曲が混じっているものだが)。

1stアルバムの成功後、バンドは自らのイメージに悩み、世の中の多くのバンドがそうするように、2ndアルバムを作ることによって1stからの脱却を図ろうとした。

2ndアルバムでまず印象に残るのが、#2:Is It Any Wonder?であるが、当時、ボーカルのトムはこの曲を"Rock'n Roll Beast(ロックンロールの野獣)"と表現していた。
野獣と呼ぶには些か野蛮さにかけると思ったが、激しくエフェクトをかけた独特のキーボードの音などは、1stアルバムのイメージを覆すには十分であり、この作品の持つ、陰鬱さを交えたおとぎ話のような世界観においては、うってつけの野獣であった。
アルバムの世界観は#1:Atlanticにより作られ、最後を締めくくる#12:The Flog Princeまで、一貫している(日本盤には#13:Let It Slideの収録がある)。
ジャケット画像の印象も相まって、アルバムを通して聴くことに、まるで一つの絵本を読んでいるかのような心地良さがある。
歌詞の内容こそKeaneらしいが、全編通じて非常に良く統一された、質の高いコンセプトアルバムである。

詳細については別の機会にしたいが、この、不思議な世界観を持ったアルバムを、個人的にはとても気に入っている。

2012/11/04

どんよりと曇った微妙な空模様:Sun/Two Door Cinema Club

Two Door Cinema ClubのアルバムBeaconより、#4:Sunが2ndシングルとしてリリースされたようで、PVが公開されている。


Sun/Two Door Cinema Club

PVは、公式サイトのトップページでも観ることができる。
http://twodoorcinemaclub.com/
トップページ上に大きく表示されるPV、以前はSleep Aloneだったが、シングルリリースに合わせてSunに替えられた模様。

この曲は、Beaconの中では一番好きで聴いていた曲である。
PVにはWhat You knowのように、健康的な女の子(そして彼女らの踊る、不可思議なダンス!)が登場している。

撮影場所は北西フランスのル・アーブル(Le Havre)という町だそう。
明るさがありながらもどんよりと曇った微妙な空模様は、この曲にマッチしていると感じる。
妙にハイテンションな周囲の人々(彼らは映像の中で、風景のように表れては消えていく)と、それらとは対照的にぼんやりと物思いに耽っている様子であり、上の空なバンドのテンションとの温度差もまた、曲にマッチしている。

PVを観て、歌詞を読んで、この曲が切ない曲だということに気が付いた。