2013/08/27

軽妙でライトで、爽やかな小説:今夜、すべてのバーで/中島らも


とあるブログで作品の紹介記事を拝見し、興味を持った。
吉川英治文学新人賞を受賞した、中島らも氏の代表作である。


18歳から35際まで、アルコールとの濃密な日々を過ごした主人公、小島容(こじまいるる)が、遂にアルコールで肝臓を悪くして病院に入るところから、物語は始まる。
ふとしたきっかけによりアルコールを摂取する習慣にとり憑かれ、アル中に関する文献を肴に酒を飲み続けたというこの小島容は、病院でのわずかな(40日間の)療養生活によって、健全な人間らしさを取り戻していく。
その肉体を蝕み、危険な領域の一歩手前まで自分を連れて行ったアルコールからの脱却。
その過程において、容は過去の、そして現在の自分を取り巻くおかしくもどこか人間らしい幾人かの登場人物と接し、彼らについて、自分自身について、アルコールや薬物を取り巻く社会状況について、アルコールを摂取することについて、考える。

登場人物は皆、容を映し出す鏡のようである。
彼らは時に、ネガフィルムのように容を反転させたキャラクターに感じられるが、反転された彼らの存在により、容の姿はまるで版画のように浮かび上がってくる。


率直に言って、中性的で、シンプルで、どこか爽快な読後感を得られる作品であると感じた。
登場人物には存在感(インパクトがあるという意味ではなく、確かにいそうだという意味での)があり、親密さを感じさせる。
彼らの姿は、まるで自分の身の回りにいる誰かのように生き生きと描かれているため、この作品の登場人物からは確かな手応えというものを感じる。
それでいて、彼らから目を背けたいという感じは起こさせない。

この作品には、村上龍氏の小説のようにドロドロとした生臭い感触はなく、村上春樹氏の小説のように密度の濃い描写もないが、作者自身の実体験をモデルにしているところなど、彼らの作品に近い雰囲気はある(彼らは皆、同世代を生きた作家である)。
中島らも氏の書くこの小説は、どこかサブカルらしい雰囲気を持ちながらも、軽妙にライトで清々しい雰囲気に満ちている。
アル中という、一見すると饐えた臭いでも漂ってきそうな素材を扱っていながら、さらりと難なく読ませるあたりなど、この作品の特筆すべき魅力である(他でレビューを読んだりしていると、アル中に関する文献からの引用や、実在する家族に関する観察資料など、リアルで手応えのある情報が含まれており、それゆえにこの作品にはある種の重さがあるという意見もあるが、それらの存在があってもなお、軽妙で清々しい読後感を与えるところがこの作品の特筆すべき点である)。

以前、ある友人が、「爽快感のある小説を読みたい」としきりに言っていたが、彼にこそ、この作品を勧めたいと思う。
この作品は長編というくくりに入るだろうが、難なく一気に読んでしまった。

気持ちのいい、ほんのりと明るい読後感。おすすめである。
独特なタイトルは、作品の最後を読めばその意味を理解できる。
素敵な締めくくりである。

2013/07/31

くるりの再評価:さよならストレンジャー

ここ最近は、邦・洋問わず様々な音楽を聴いていた。
今日はその中から、特に良いなと思ったものについて書きたい。
なお、特に脈絡もなく聴いていたので、何故この曲をチョイスしたのかについて、胸を張って人に説明できるような理由は特にはないことを予め断っておく。


虹/くるり


今年の6月の、初夏に差し掛かるまでの梅雨の時期には、くるりをよく聴いていた。
早く夏よ来い…などと考えながら、はっぴいえんどの「夏なんです」を聴いていたことがきっかけである。
というのも、くるりの「春風」という曲が、はっぴいえんどの「風をあつめて」という曲に似ているということを、ネットで目にしたからである(確かに似ていると思う)。

久しぶりにくるりを聴いたら懐かしくなってしまい、久しぶりに彼らの1stアルバムである「さよならストレンジャー」を手にとった。

このアルバム、実に良い。

#1「ランチタイム」はタイトルから受ける印象のとおり穏やかで日常的な曲であるが、#2「虹」で、見せる風景は一気に開放的になる。
#3「オールドタイマー」は初期衝動のような疾走感のある曲。
#4「さよならストレンジャー」と#6「東京」は、初期くるりの代表曲と言って良いだろう。どちらもスローテンポな曲だが、1stにして、ここまで聴かせるメロディを作るのはすごい。「東京」の名を関する曲は数多あるが、くるりの「東京」は、個人的に好きな曲である。
#5「ハワイサーティーン」#8「葡萄園」のように実験的な曲もある。
#7「トランスファー」#9「7月の夜」はポップな佳作といった印象。
#12「ブルース」は、終わりの1曲に相応しいスケール感のある曲。穏やかに始まるイントロから、急に音圧が上がりイントロに入る部分が好き。

とまあ、多少べた褒めな感じもするが、この作品を聴いていて、一気にくるりのことが好きになってしまったのである。

音楽に興味を持ち始めた頃にもこのアルバムを聴いたことがあったのだけれど、当時の自分にはあまり良さが分からなかったことを覚えている(退屈で地味…などと感じていた)。
こういうことは非常によくあることなのだが、機会をあらためて聴いてみると、同じ作品から全く違った印象を受ける。当然評価も変わる。

収録作品の中でも特に良いと思ったのが、#2「虹」。
終盤のギターソロは、まさにロックといった感じであり、今まで自分がこの曲に抱いていたイメージは何だったのだろう…と、目からウロコが落ちる思いであった。
これは、紛れもないロックミュージックであると、そう思った。

この作品に続いて2nd、3rd…と聴いてみたが、巷で言われているとおり(そして多くの批判の対象になっているとおり)、くるりは作品ごとに毛色がまるで違う。
その中でもこの1stは、王道の(ベタな)ジャパニーズロックアルバムであるが、個人的にはくるりの中でも一番好きなアルバムだと思っている。

面白いなあ、くるり。

2013/06/26

次回作の傾向について:Do I Wanna Know?/Arctic Monkeys

Arctic Monkeysより、新曲:Do I Wanna Know?がリリースされた。

 Do I Wanna Know?(Official Video)/Arctic Monkeys

Youtubeにアップされた動画をブログに貼りつけると、大抵は再生が制限されてしまうのだが(vevoとか)、Arctic Monkeysは公式動画なのにきちんと再生できる。
この辺り、ネットを介して急速に流行した彼ららしいと考えるのは早計だろうか…?笑

曲の方向性は、直近の傾向を踏襲したものとなっている。
違いといえば、曲の持つイメージだろうか。

暗く、ミドルテンポで重厚。
PVを見るとまさにそうだが、この曲はかなり怪しげな雰囲気を醸しだしている。
初めて聴いたときは、R U Mine?と似たギターの音に、どこか3rdアルバム:Hambugを思わせる雰囲気を持った曲だなと思った。

アルバムSuck It And See以降、初の新曲シングル(アルバムに収録されていない単体曲としてのシングル)としてリリースされたR U Mine?は、PVこそモノクロであるが、曲自体はどこかアッパーな雰囲気を持っており、決して暗い曲ではなかった。


R U Mine?/Arctic Monkeys

なので、新曲:Do I Wanna Know?は、リーゼント以降(アレックスがリーゼントにして以降)の曲としては初めての暗い曲なのである。

Arctic Monkeysは自分の中でも1、2位を争うほど好きなバンドであるが、最近の傾向を見ていると新作を聴くのが少し怖いような気もする。
何度か記事を書いているThe Strokesとは違って、Arctic Monkeysはバンド自体のイメージ(ルックス的やスタイルのようなもの)が結構激しく変化しており、彼らがどこに向かかうのか、見ているだけでハラハラさせるものがある。
ちなみにSuck It And See以降の古き米国を思わせるロックなテイスト(Suck It And SeeのPVやジャケット絵のような、砂漠にバイクにマッチョが出てくるような陽気でタフな感じ)は結構気に入っていた。

 Evil Twin/Arctic Monekys

この曲はシングル:Suck It And Seeのカップリングであるが、かなり好き。
サビや間奏のうねるようなギターが格好良くて、何度も聴いた曲である。


Arctic Monkeysにはアルバムごとにある種の世界観のようなものがあるので、最近の傾向からすると、次作は骨太なロック+暗めのテイスト(無理やりまとめるならば、4th+3rdのテイスト)になるのだろうと考えられる。
アルバムごとに変化しているバンドのロゴについては、Do I Wanna Know?の最後に出てくる"AM"の文字のようになるのではないかと予想(現在のロゴは、公式HPのトップにて見ることができる)。

http://www.arcticmonkeys.com/splash/