2012/10/31

寒い冬に適した音楽:X&Y/Coldplay

曲には、それぞれの相性の良いシチュエーションというものがある。
ドライブに適した音楽、クラブで踊るのに適した音楽、穏やかな日曜日の午後に適した音楽。
音楽の愛好者は、様々な音楽を、自らの好むシチュエーションに合わせて楽しむ。そして利用する、消費する。
季節というのは、そういったシチュエーションの中の、大切な一つである。

急速に冷え込む今のような季節には、冬に聴く音楽のことを思わずにはいられない。


個人的な見解ではあるが、ColdplayのX&Yは、冬に聴くのにうってつけの音楽だ。
このアルバムには寒い冬、それも窓を開けて空気を吸い込むと身体中の血管が縮こまるような、とびきり寒い冬が合う。

なぜそれがColdplayのX&Yなのか。
例えばEric ClaptonのReptileではダメなのか。
人を説得できるような理屈で説明しろと言われても難しいが、とにかくそう感じるのだから仕方がない。
(でも、寒い冬にThe Beach BoysのPet Soundsを聴きたいという好き者はあまりいないだろう。もしいたとしたら、その人は音楽と相当律儀に付き合っているか、古き良き時代の思い出に浸って現実逃避をしているかのどちらかに違いない)

"cold"という単語から短絡的な連想をしているだけであるのか、或いはジャケットの濃いブルーが自分にそう感じさせるのかは分からないが、自分にとって、ColdplayのX&Yは冬に聴くアルバムなのである。


X&Yは、2005年にリリースされたColdplayの3rdアルバムである。

冒頭の1曲:Square Oneは、”ツァラトゥストラはかく語りき ”を思わせる重厚な出だしから始まり、神秘的なシンセサイザーのサウンドは宇宙のように暗くて広く冷たい空間を思わせ、このイメージがアルバムの印象を決定づけている。

1stアルバム(Parachutes)、2ndアルバム(A Rush Of Blood To The Head 邦題:静寂の世界)からのファンの間では、3rdアルバムでColdpleyはロックバンドらしさを失ったと言われており、前作までの作品と比べて装飾性の高くなった本作の評価は割れているようだが、自分は4th:Viva La Vida Or Death And All His Friends(邦題:美しき生命)、5th:Mylo Xylotoを含めても、本作が一番好きである。
バンド感のある曲(The Hardest Part)やシンセの音が美しい曲(White Shadows)など曲ごとに個性はあるが、アルバムとして非常に綺麗にまとまっている。
Brian Enoと手を組んだ次作は本作の方向性を更に強めたものとなっているが、いくらか前衛的すぎる嫌いがあり、アルバムとしての完成度は本作の方が上回っている。

個人的には、先行シングルであるSpeed Of Soundではなく、それ以外の曲が気に入っている。
本作はまた、良質なヘッドフォンでじっくりと聴きたい作品である。



Wikipedia

http://www.coldplay.com/

2012/10/28

ブリティッシュロックへの回帰:Don't Believe The Truth/Oasis


Oasisのアルバムで一番好きなものは?と聴かれたら、まず思い浮かぶのは1st:Definitely Maybe、そして2nd:(What's The Story)Morning Glory?であろうか。
個人的には、彼らの6枚目のアルバムであるDon't Believe The Truthが気に入っている。

3rdアルバム以降、アルバムの評価的に決して成功しているとはいえなかったOasisであるが、本作では王道のブリティッシュロックに回帰し、それが見事に成功している。
1stアルバム、2ndアルバムの成功、歯に衣着せぬ物言いや、しばしばメディアを騒がす荒っぽいエピソード、兄弟喧嘩…と、注目度は圧倒的に高く、名実ともに英国を代表するバンドであったことは周知のところではあるが、本作品によってその地位は確固としたものとなったように思う。

何と言っても好きなのは、アルバムの1曲目であるTurn Up The Sunだ。
カウントアップから始まるイントロ、控えめにリズムを刻む鈴の音、アナログなギターの音。
音からは、枯れた荒野や沈みゆく夕日といったイメージが連想される。
曲から滲み出るハードボイルドな雰囲気が、たまらなく格好いい。

 Turn Up The Sun/Oasis

イントロの格好良さ、そしてストイックかつドライなイメージが印象的な曲である。
こんな曲から始まるアルバムが、名作でないわけがない。

そして、本アルバムの1stシングルにして、後期に発表された曲の中では圧倒的な支持を得ているこの曲。

 Lyla/Oasis

Turn Up The Sunと同じく、冒頭のギターから、ただただ格好いい曲である。

他にも、The Importance Of Being IdleやLet There Be Loveのように、ノエルのボーカルで優れた曲もある。
全体的にギターの使い方が土臭くて、それがとても良い。
また、前作までとの違いとして、ボーカルの音に重みが増しているように感じられる。

6枚目というタイミングで、何の脈絡もなくこれほど存在感のある作品を残すことができたのは、バンドにとって重要なことであったに違いない。
スタジアムのような巨大な会場で、大人数を前にして演奏するのに耐えうるだけのキャパシティーを持ったバンドというのは、そうそう数が多いものではないと思うが、本作によって、Oasisはそういった高みに到達した感がある。
本作がなければ、Oasisというバンドの痕跡は今ほど強く残っていなかっただろう。
純粋にそう思えるほどの作品である。

本作がリリースされた当時の熱狂を垣間見ることのできる映像を発見した。
Live Manchester 2005/Oasis

ちなみに2005年は音楽的に豊作の年であり、他のバンドからもいくつか優れたアルバムが発表されているのだが、その話はまた別の機会にということで。

2012/10/16

どうにも放っておけない音楽/The Royal Concept

http://www.royalconceptband.com/

スウェーデンのストックホルム出身のバンド、The Royal Concept。
御世辞にもあまり格好いいとはいえないバンド名であるが、どうにも放っておけない音楽を鳴らしている。


Gimme Twice/The Royal Concept
PVはこちら:http://www.youtube.com/watch?v=Bp-S31NZ4-Y

EPを聴いてまず思ったのは”Phoenixに似ている”ということであるが、同じことを感じた人は多いようで、iTunesのレビューや他のブログでもPhoenixに似ているということが仕切りに言われている。
#1 Gimme Twice、#4 D-D-Danceは特にPhoenixを彷彿とさせるし(#1はアルバム「Wolfgang Amadeus Phoenix」に収録されたGirlfriendという曲を連想させる)、#2 Goldrushed、#3 Knocked UpなんかはThe Strokesっぽくもあったりする(ボーカルの声にかけたエフェクトと電子的な音から、特にアルバム「Angles」のテイストに近いものを感じる)。



D-D-Dance/The Royal Concept
PVはこちら:http://www.youtube.com/watch?v=MkYgQBuXhes

この曲は、PhoenixのLisztmaniaという曲(アルバム:Wolfgang Amadeus Phoenixに収録)に非常に近い雰囲気を持っている。

上記動画ではバンド名がThe Conceptとなっているが、こちらは元々のバンド名で、たまたま同名のバンドがいたことから途中でThe Royal Conceptへと改称したとのこと。

2012年7月24日にリリースされた「The Royal Concept EP」が事実上のデビュー盤であったり、Wikipediaにもまだバンドの記事がなかったりと、まさにデビューしたてのバンドであるが、このEPは非常に面白い。

Product Description 
2012 release from the Swedish quartet. Over the past year, The Royal Concept managed to catch the attention of the blog-o-sphere and play to rabid live audiences. 'D-D-Dance' reached #2 on Hype Machine, while 'Gimme Twice' hit #3. They began to pack houses in Sweden, selling out shows of their own. Lava Records founder and CEO Jason Flom was transfixed by the band's presence and sound from the second he first saw them, signing them earlier this year. ''You can't really put it into words,'' he affirms. ''There's an intangible magic to this band. A&R usually isn't this easy!''(Amazon.co.jpより) 

関連記事:バンドの秘めたポテンシャル/The Royal Concept
http://altblg.blogspot.jp/2013/05/the-royal-concept.html

2012/10/10

ティーンエイジャーのどこか頼りなげな感じ/Smith Westerns


Smith Westerns、なんとも微妙な空気感を持つバンドである。


Weekend/Smith Westerns

彼らの2ndアルバムであるDye It Blondeの1曲目、Weekendは良い。曲も良いし、PVも良い。
PVの中の彼らは、空虚でナンセンスな日常を過ごしているように見える。何をするでもなく、ただ時間が経過するのを待っているだけのように感じられるのだ。
蛍光イエローのチーズの色も、不自然にグリーンなソーダの色も、どちらも極めて非日常的だが、彼らにとってはそれはごく当たり前の日常なのである。

アルバム全体を通して聴いてみると、その完成度は決して高いとは言えない。だからこそ、その時限りの空気みたいなものが表現されているような気がして、多少の荒削りさが、逆に作品の質を高めているようにすら感じる。
これらの曲を作ったのは、シカゴに住む若干二十歳の3人組なのだ。そう思って聴いていると、いろいろと感じるものはある。
ティーンエイジャーのどこか頼りなげな感じや、自分を振り回す感情の起伏なんてどこ吹く風といった風情で飄々としている様が、何とも切ない。そんなアルバムである。



Imagine Pt.3/Smith Westerns


彼らの原点にはブリットポップがあるそうで、アルバムは全体を通してノスタルジックな雰囲気を醸している。
アルバム5曲目"Fallen In Love"、7曲目"Only One"は、特にブリットポップらしい雰囲気を持っている。
(冒頭のバンドHPにて、アルバムDye It Blondeの全曲が試聴可能)

どの曲もメロディは良質であり、まだ歳もそこそこの彼らが、勢いに頼ることをせず、雰囲気でここまで聴かせるアルバムを作ったことは素直に素晴らしいと思う。


Smith Westernsは、イリノイ州シカゴ出身のインディーロックバンドである。彼らの音楽はDavid Bowie、T.Rex、そしてBrit Popからの影響を受けている。バンド自身の名前を冠したデビューアルバムは、HoZac Recordsより2009年6月5日にリリースされた。アルバムのほとんどは、冬から初春にかけてのMax Kakasek's basementで録音された。彼らは2011年1月18日に発売リリースされた最新アルバムであるDye It Blondeより、ニューシングル"Weekend"を2010年11月4日にリリースした。最近では、彼らはArctic MonkeysのSuck It And Seeツアーにて前座を務めている。 
Smith Westerns are an indie rock band from Chicago, Illinois. Their musical influences include David Bowie, Marc Bolan, T. Rex and Brit Pop.Their self-titled debut album was released on HoZac Records on June 5, 2009. Most of the album was recorded throughout the winter and early spring in Max Kakacek's basement.They released a new single, "Weekend", on November 4, 2010, from their most recent album Dye It Blonde, which was released on January 18, 2011.Most recently, they have been opening band for the Arctic Monkeys in their Suck It and See Tour.(Wikipediaより抜粋)

2012/10/05

よっぽど青く、衝動的であり/The Vaccines

http://www.thevaccines.co.uk/gb/splash/


2011年に1st、そして2012年に2ndとハイペースでのアルバムリリースとなった。
数多のバンドが1stで燦然としたデビューを飾り、2ndアルバム以降その輝きを失っていくところを見てきたが、彼らはどうなるであろうか。

http://www.youtube.com/watch?v=bFUKrsDDChE
Teenage Icon/The Vaccines(リンク先はPV)

音楽性としては主流も主流、ど真ん中のロックを鳴らしているといった印象。2ndアルバムでありながら1stよりもよっぽど青く、衝動的であり、聴いていてわくわくするものがある。若干の物憂げさと暗い広がりみたいなものを感じさせた1stと違い、地に足のついている感がある。
前作にも増して土臭さの残るアルバムであり、キャッチーなポップアルバムのようにすぐには馴染んでこない。ボディーブローのように、じわじわと効いてくるアルバムであると思う。No Hope、Teenage Iconといった単体で非常に強い力を持った曲の存在により、他の曲の存在感が薄れてしまっているが、アルバム全体を通して正統的なガレージロックが貫かれている。正直こういったアルバムがチャートで1位を取るというのは、ちょっとした驚きである。
コントラストはArctic Monkeysと比べて若干ぼやけており、破天荒さではThe Libertinesに及ばない。そういった点で多少の退屈さはあるものの、バンドとして表現している音楽性の完成度は高い。上記の2曲や、1stに収録されたWreckin' Bar (Ra Ra Ra)やIf You Wannaのような優れた曲の存在もあり、個人的にはバンドの今後の行方からは、目が離せない。

イギリスではリリースされた週のアルバムチャートで1位を記録している。2位はTwo Door Cinema Club。1995年のoasisとblurではないが、同じような境遇にある2つのバンドがチャートの1、2位を占めるということで、何だか熱くなるものがある。どちらもインディーロックバンドであり、ともに2ndアルバム。

The Vaccinesは、一つの時代を創り上げたOasisやThe Strokes、同じ英国のロックバンドであるThe LibertinesやKasabian、Arctic Monkeysなどと同列に語られるようなバンドとなるだろうか。

デビュー時のインパクトをバンドとしての個性に昇華させ、更に次の次元へと進めるバンドと、そうでないバンドとの違いについて考えてみると、思い浮かぶのはその熱量を如何に維持することができるかである。
デビュー時に音楽シーンへ投じた熱量を、どういった層にどの程度浸透させられるか、その深さと広さによって、バンドの立ち位置は決まる。

余談であるが、バンドのデビューというものは、株式の上場に相似している。少々強引に喩えると、インディーズバンドを未上場企業、メジャーデビューを株式上場とみることもできる。大物バンドは巨大企業に、音楽性やジャンルの違いは業種の違いに、色々と喩えて考えてみるのも面白い。

The Vaccinesは、イギリスのインディロックバンド。2010年にウェストロンドンで結成された。バンドのデビューアルバムであるWhat Did You Expect from the Vaccines?(コロンビアレコードより2011年3月14日にリリース)は、イギリスのアルバムチャートで4位にランクインした。彼らはRamonesやThe Strokes、Jesus And Mary Chainといったバンドと比較される。しかし、バンド自身は50年代のrock 'n' rollから80年代のAmerican hardcore、そして良質なポップミュージックからの影響を公言している。彼らは広い範囲をツアーで周り、The Walkman、The Stone Roses、Arctic Monkeys、そしてArcade Fireと同様のバンドとして認識されている。

 The Vaccines are an English indie rock band who formed in West London in 2010. The band's debut albumWhat Did You Expect from the Vaccines?, was released through Columbia Records on 14 March 2011 and reached number 4 in the UK Album Chart . They drew comparisons to RamonesThe Strokes and The Jesus And Mary Chain. The band, however, talked of influences ranging from "'50s rock 'n' roll to 80s American hardcore and good pop music". They've toured extensively and have opened for the likes of The WalkmenThe Stone RosesArctic Monkeys and Arcade Fire. Wikipediaより抜粋)