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ASIAN KUNG-FU GENERATIONの7枚目のアルバム、ランドマークがリリースされた。
ひと通り聴いてみてのファーストインプレッションについて。
アルバム全体を通して、優れたポップアルバムという印象を持った。
特筆すべき点は何より、聴き易いアルバムであるということである。
バンドがデビューしてまだ間もない頃の衝動的な曲でアジカンを好きになったファンは、近年、デビュー当時のような疾走感や荒っぽさのある曲が発表されないことを嘆いているが、残念ながらこのアルバムはそういった方向性を突き詰めたものではない。
変に色がついておらず聴き易い作品であり、そういった点において本作は、優れたポップアルバムであると言える。
どこかで「ミスチルのアルバムのようだ」と書かれているのを見て、ファンとしては「そんなことはないだろう」と思ってしまったのだが、ポップで聴き易いという点を考えると、あながち的外れな指摘ではないとも思う(もちろん曲調は違うが、敷居の低さという点において)。
本作にはCD音源とは違ったリマスタリングによるアナログ盤があり、A面6曲、B面6曲で構成されている。
自分はCDで聴いているが、このA面、B面というのはなるほどよく考えられており、本作は前半の6曲と後半の6曲が、それぞれミニアルバムとして個々に聴けるくらいに綺麗にまとまっている。
なので、このアルバムについては、A面、B面として捉えるのが的確であろうと思う。
アルバムリリースから1週間。ファーストインプレッションについて。
A面
1.All right part2
入り口である1曲目にこの曲を配置したことは、アルバムへの導入をスムーズにするという点において成功している。
この曲は2011年のNANO-MUGEN FES.用にリリースされたコンピレーションに収録されており、収録曲の中でも比較的古い曲である。それ故、真新しさはないが、磐石な選曲であるといえる。
アルバムの印象は一曲目に大分左右されると思うが、この曲の取っ付き易さによって、ランドマークの敷居はグッと低くなっている(収録曲の中では一番キャッチーな曲だと思う。実際、この曲がランドマークを聴くきっかけとなっている)。
バンド自身が度々語っているところによると、本作には、これまでのアルバムのように何らかのコンセプトが意図されていないそうだ。バンドにとっても聴衆にとっても、このアルバムに対しては肩肘を張る必要がなく、変に身構える必要もないということである。
収録にあたってASIAN KUNG-FU GENERATIONのみでの再録がなされるものと思っていたが、収録された曲にはNANO-MUGEN COMPILATION 2011と同じく、チャットモンチーのボーカル
橋本絵莉子女史(えっちゃん)が参加している。
なお、表記はされていないが、アルバムヴァージョンのようである。
2.N2
2011年11月にリリースされたシングル「マーチングバンド」に収録されたカップリング曲。マーチングバンドが収録曲から外れている(ベスト盤には収録されている)のに対して、カップリングのこの曲が収録されるというのは意外であった。
シングルのマーチングバンドを聴いていないため、ちゃんと聴くのはこのアルバムが初めてであるが、”変わった曲”という第一印象とは違い、アルバムの一曲としては良い存在感を放っている。ボーカルやギターにかかった強いエフェクトが、曲全体の雰囲気をソリッドなものにしている。
N2はNo Nukesを意味していると言われている。
音楽がその歌詞によって様々な矛盾やフラストレーション、或いは何かしらの思いを表現することに何ら異存はないが、それらの内容に対して自分は冷静なスタンスをとっており、自身の生活とは一定の距離を置いたものとして捉えている。
この曲をアルバムに収録したことは、バンド(主にボーカル後藤氏)の明確な意思表示の現れであろう。こういった社会的な主張を含んだ曲は、ワールドワールドワールドにおけるNo.9などの前例があるが、不可思議で不可避な体制(戦争や資本主義社会といったもの)に抗い、鼓舞するロックやパンクというものを、音楽性ではなく”表現者のスタンス”や”曲に込めたメッセージ”として表現しようとする後藤氏の姿勢が感じられる。
3.1.2.3.4.5.6. Baby
歌詞がシンプルな曲。
出だしは明るい。テンポは良いが軽くなく、一つ一つの音はしっかりとしている。既存曲でる1、2曲目の前置きを終え、ようやくアルバムが始まったという印象を受ける(曲順では、1曲目の新曲がこの曲である)。
”愛を”という、歌詞カードに書けばたった2文字の言葉を、サビとして高らかに歌いあげるのは気持ちがいい。”愛を”は”I want”とも聴き取れる。
歌詞カードを見て”変わった曲”というイメージを持っていたが、一聴してすぐに好きになった。アルバム中、最も気に入った曲である。シンプルな歌詞を繰り返す分かりやすさと、クリアでキャッチーなメロディがとても良い。
最後のサビの前、曲のテンポが下がり喜多氏が高い声で歌う部分のギターの音は「夕暮れの紅(リライトc/w)」を彷彿とさせる。
4.AとZ
儀式的なドラムが印象的な曲。広い空間を感じさせるサビは、アジカンの新境地。自分はColdplayを連想した。
タイトルから感じられるとおり、歌詞はアルファベットを多様した言葉遊びであり、メッセージ性に富んだ曲でもある。こういった歌詞を、狙った感じを微塵も出さずに自然と曲に乗せてしまうところは、後藤氏の優れた才能であると思う。この曲に限らず、歌詞のセンスがとてもいい。
ちなみにTPPの後に出てくるCPZは、アダルトサイトを指しているといわれている。
5.大洋航路
タイトルから連想されるとおり、青い海や風の吹き抜ける港をイメージさせる明るさを持った、アップテンポの曲。サビのコーラスが気持ちいい。イメージといい音作りといい、サーフ ブンガク カマクラに通じる雰囲気を持った曲である。
6.バイシクルレース
PVが制作されていることから、アルバム中のハイライト曲であると思われる。
A面のラストを飾る曲であり、丁寧に作られた曲である。
静かに落ち着いた始まりから徐々にリズムを取り入れて行く演出は、淡々とした日常生活をイメージさせる(PVのように、何でもない、どこにでもありそうな街の風景が良く馴染む)。
”走る”や”自動車”ではなく、自転車をメタファーとして用いたのは秀逸であったと思う。
雰囲気は「ムスタング」に似ているが、イントロ・アウトロの電子音の澄んだ感触とサビの抑揚により、ムスタングのように暗さを感じる曲ではない。最後のサビの前、「漕ぎ出せ、走り出せ」の部分が好きである。
「遠く向こうから、雨の匂い」の部分では、ギターの音を聴いて「飛べない魚(ブルートレインc/w)」を思い出した。
B面に続く。
ランドマーク(B面)/ASIAN KUNG-FU GENERATION