2013/09/11

アルバムレビュー:AM/Arctic Monkeys

9月4日に日本先行リリースされたArctic Monkeysの5thアルバム:AMを聴いている。

作品を重ねるごとに新たな一面を見せる彼らであるが、今作は、過去の作品に近い雰囲気を感じさせる曲がいくつか見られた。
音の印象や雰囲気の傾向は、Humbag(3rd)に近い(Humbag、世間的な評価はあまり高くないそうですね。個人的には好きなアルバムですが)。
そして、AlexのサイドプロジェクトであるThe Last Shadow Puppets、さらにはAlexのソロ作品であるSubmarineを思わせる一面もある。

本作を聴いてまず印象に残ったのは、リズム・コーラスの存在感と曲の幅広さ。
他アーティストが演奏に参加したりコーラスが多用されていたりと、曲の構成は以前に比べて複雑化している。
本作は、ライブでの再現や実際の演奏というよりも、アルバムを聴くことに重点を置いて作られた作品であると感じた。

一言で言うなら、アコースティックでどこか開放的であった前作と違い、今作はエレクトリックで内向的。
Suck It And Seeに見られたピーカンの砂漠のような明るいイメージはなく、全体的に暗い、夜の印象。
アルバムにコーラスとして参加しているQueens Of Stone AgeのJosh Hommeは「午前0時以降に聴くべき、セクシーな作品」といった発言をしているが、まさにそういった雰囲気を感じさせる。
一聴してすぐに好きになるようなアルバムではないが、じっくり聴き込むと、Arctic Monkeysのヒストリーの1ページを刻むしっかりとした存在感がある。
いわゆるスルメというやつである。




アルバムごとに新しくなっていたバンドのロゴは、前作と同じものであった(変わると思っていたのだけれど)。

以下に、第一印象からのアルバムレビューを書く。

#1:Do I Wanna Know?
1曲目は、先行リリースのシングル:Do I Wanna Know?から始まる。
Arctic Monkeysのアルバム中、最もスローテンポな幕開けである。
この曲に限らず、このアルバムには別れた恋人(または上手くいっていない恋人)に対する感情を歌った曲が多い。どうしてもAlexと、4年程付き合っていたAlexa Chungとの破局について考えてしまう。
#2:R U Mine?
シングル・ヴァージョンとは違う新たなアレンジ。アルバム収録にあたり再録はされていないようだが、ドラムの音量が大きくなっており、全体的にはっきりとした音質にリマスタリングされている。収録曲中、最もハードな曲。
#3:One For The Road
印象的なコーラスから始まる曲。#9:Why'd You Only Call Me When You're High?のように、真夜中から早朝にかけての時間帯を思わせる。
#4:Arabella
不気味なイントロに逆回転のギター音がまず、耳につく。イントロの重厚で怪しいメロディが格好いい。切れ味の良いサビもメリハリがあって良い。
#5:I Want It All
リズミカルでアップテンポな曲。ギターのメロディを聴いて、どこかで聴いたことがある…とずっとひっかかっていたのだが、音階こそ違えど、RadioheadのBonesという曲(アルバム:The Bendsの5曲目)のギターと似ている(サビのバックで流れているリードギターのメロディ)。歌詞中、The Rolling Stonesの2000 Light Years From Homeという曲が登場する。
#6:No.1 Party Anthem
Humbug好きにはたまらない1曲であろう。Secret DoorやCornerstoneに近い雰囲気を持っている。どこかしら、SmithWesternsのような曲。
#7:Mad Sounds
タイトルのとおり、まどろっこしい曲である。ゆっくりとした曲の雰囲気から考えると、アルバム中の位置づけは、前作でいうところの#11:Suck It And Seeか。これらを比較するだけで、本作が前作に比べていかにスローな作品であるかということが分かる。
#8:Fireside
Last Shadow Puppetsを感じさせる。短く刻むギターにラテンっぽいメロディ。どこか哀愁を感じさせる、徐々に上がっていく展開も良い。アルバムを聴いて、最初に好きになった曲である。
#9:Why'd You Only Call Me When You're High?
扱っている歌詞の内容もメロディも、アルバム中最も”今らしい”曲。時代を逆行するバンドのルックスとは違い、往年のArctic Monkeysらしい1曲であると感じた。
#10:Snap Out Of It
テンポよく、規則正しく刻まれるリズムにより規則正しく進んでいく、比較的はっきりとした曲。コーラスは多用されている。
#11:Knee Socks
凝った作りで、曲の展開は複雑に変化する。エフェクトをかけたコーラスも新しい。
#12:I Wanna Be Yours
スローな曲で幕を開け、スローな曲で幕を閉じる本作。
前半のハードな雰囲気とは打って変わって、どこか哀愁を漂わせる曲である。
#13:2013
日本盤に収録されたボーナストラック。アルバム前半のハードな曲達と同じグループに属するであろう1曲。「ボーナストラックくらい、アップテンポな曲を!」と思って少し期待していたのだが、今の彼らは、そういう曲は作らないようである。


バンドにとって5枚目のアルバムとなる本作。
例えばストロークスでいうと5枚目はComedown Machineに当たるのだが、それと比較してどうだろう。
真新しさがあるとはいえず、鉄板のヒットソングのように突き抜けた曲が収録されているわけでもない。既存のArctic Monkeysを期待して聴くと、間違いなく消化不良を起こしてしまうだろう。

ある意味、不満を感じるほどに、安定している。
でも逆に、この安定感こそがArctic Monkeysの凄さであると思う。
斜め上の方向を行く斬新さや思い切った音楽性の変化はないが、ゆるやかに、でも着実に、バンドとしての個性は強固になっている。
ルックスも含めて独自のスタイルを突き通す姿は、彼らに心酔するファンにとって心強い。

驚いたのが、Alex Turnerはまだ27歳であるということ。
この若さにしてこの円熟っぷり。

バンドが更なる変化を遂げ、これぞArctic Monkeysというものを築きあげていくところを、今後も見守っていきたいと思った次第である。

2013/08/27

軽妙でライトで、爽やかな小説:今夜、すべてのバーで/中島らも


とあるブログで作品の紹介記事を拝見し、興味を持った。
吉川英治文学新人賞を受賞した、中島らも氏の代表作である。


18歳から35際まで、アルコールとの濃密な日々を過ごした主人公、小島容(こじまいるる)が、遂にアルコールで肝臓を悪くして病院に入るところから、物語は始まる。
ふとしたきっかけによりアルコールを摂取する習慣にとり憑かれ、アル中に関する文献を肴に酒を飲み続けたというこの小島容は、病院でのわずかな(40日間の)療養生活によって、健全な人間らしさを取り戻していく。
その肉体を蝕み、危険な領域の一歩手前まで自分を連れて行ったアルコールからの脱却。
その過程において、容は過去の、そして現在の自分を取り巻くおかしくもどこか人間らしい幾人かの登場人物と接し、彼らについて、自分自身について、アルコールや薬物を取り巻く社会状況について、アルコールを摂取することについて、考える。

登場人物は皆、容を映し出す鏡のようである。
彼らは時に、ネガフィルムのように容を反転させたキャラクターに感じられるが、反転された彼らの存在により、容の姿はまるで版画のように浮かび上がってくる。


率直に言って、中性的で、シンプルで、どこか爽快な読後感を得られる作品であると感じた。
登場人物には存在感(インパクトがあるという意味ではなく、確かにいそうだという意味での)があり、親密さを感じさせる。
彼らの姿は、まるで自分の身の回りにいる誰かのように生き生きと描かれているため、この作品の登場人物からは確かな手応えというものを感じる。
それでいて、彼らから目を背けたいという感じは起こさせない。

この作品には、村上龍氏の小説のようにドロドロとした生臭い感触はなく、村上春樹氏の小説のように密度の濃い描写もないが、作者自身の実体験をモデルにしているところなど、彼らの作品に近い雰囲気はある(彼らは皆、同世代を生きた作家である)。
中島らも氏の書くこの小説は、どこかサブカルらしい雰囲気を持ちながらも、軽妙にライトで清々しい雰囲気に満ちている。
アル中という、一見すると饐えた臭いでも漂ってきそうな素材を扱っていながら、さらりと難なく読ませるあたりなど、この作品の特筆すべき魅力である(他でレビューを読んだりしていると、アル中に関する文献からの引用や、実在する家族に関する観察資料など、リアルで手応えのある情報が含まれており、それゆえにこの作品にはある種の重さがあるという意見もあるが、それらの存在があってもなお、軽妙で清々しい読後感を与えるところがこの作品の特筆すべき点である)。

以前、ある友人が、「爽快感のある小説を読みたい」としきりに言っていたが、彼にこそ、この作品を勧めたいと思う。
この作品は長編というくくりに入るだろうが、難なく一気に読んでしまった。

気持ちのいい、ほんのりと明るい読後感。おすすめである。
独特なタイトルは、作品の最後を読めばその意味を理解できる。
素敵な締めくくりである。

2013/07/31

くるりの再評価:さよならストレンジャー

ここ最近は、邦・洋問わず様々な音楽を聴いていた。
今日はその中から、特に良いなと思ったものについて書きたい。
なお、特に脈絡もなく聴いていたので、何故この曲をチョイスしたのかについて、胸を張って人に説明できるような理由は特にはないことを予め断っておく。


虹/くるり


今年の6月の、初夏に差し掛かるまでの梅雨の時期には、くるりをよく聴いていた。
早く夏よ来い…などと考えながら、はっぴいえんどの「夏なんです」を聴いていたことがきっかけである。
というのも、くるりの「春風」という曲が、はっぴいえんどの「風をあつめて」という曲に似ているということを、ネットで目にしたからである(確かに似ていると思う)。

久しぶりにくるりを聴いたら懐かしくなってしまい、久しぶりに彼らの1stアルバムである「さよならストレンジャー」を手にとった。

このアルバム、実に良い。

#1「ランチタイム」はタイトルから受ける印象のとおり穏やかで日常的な曲であるが、#2「虹」で、見せる風景は一気に開放的になる。
#3「オールドタイマー」は初期衝動のような疾走感のある曲。
#4「さよならストレンジャー」と#6「東京」は、初期くるりの代表曲と言って良いだろう。どちらもスローテンポな曲だが、1stにして、ここまで聴かせるメロディを作るのはすごい。「東京」の名を関する曲は数多あるが、くるりの「東京」は、個人的に好きな曲である。
#5「ハワイサーティーン」#8「葡萄園」のように実験的な曲もある。
#7「トランスファー」#9「7月の夜」はポップな佳作といった印象。
#12「ブルース」は、終わりの1曲に相応しいスケール感のある曲。穏やかに始まるイントロから、急に音圧が上がりイントロに入る部分が好き。

とまあ、多少べた褒めな感じもするが、この作品を聴いていて、一気にくるりのことが好きになってしまったのである。

音楽に興味を持ち始めた頃にもこのアルバムを聴いたことがあったのだけれど、当時の自分にはあまり良さが分からなかったことを覚えている(退屈で地味…などと感じていた)。
こういうことは非常によくあることなのだが、機会をあらためて聴いてみると、同じ作品から全く違った印象を受ける。当然評価も変わる。

収録作品の中でも特に良いと思ったのが、#2「虹」。
終盤のギターソロは、まさにロックといった感じであり、今まで自分がこの曲に抱いていたイメージは何だったのだろう…と、目からウロコが落ちる思いであった。
これは、紛れもないロックミュージックであると、そう思った。

この作品に続いて2nd、3rd…と聴いてみたが、巷で言われているとおり(そして多くの批判の対象になっているとおり)、くるりは作品ごとに毛色がまるで違う。
その中でもこの1stは、王道の(ベタな)ジャパニーズロックアルバムであるが、個人的にはくるりの中でも一番好きなアルバムだと思っている。

面白いなあ、くるり。

2013/06/26

次回作の傾向について:Do I Wanna Know?/Arctic Monkeys

Arctic Monkeysより、新曲:Do I Wanna Know?がリリースされた。

 Do I Wanna Know?(Official Video)/Arctic Monkeys

Youtubeにアップされた動画をブログに貼りつけると、大抵は再生が制限されてしまうのだが(vevoとか)、Arctic Monkeysは公式動画なのにきちんと再生できる。
この辺り、ネットを介して急速に流行した彼ららしいと考えるのは早計だろうか…?笑

曲の方向性は、直近の傾向を踏襲したものとなっている。
違いといえば、曲の持つイメージだろうか。

暗く、ミドルテンポで重厚。
PVを見るとまさにそうだが、この曲はかなり怪しげな雰囲気を醸しだしている。
初めて聴いたときは、R U Mine?と似たギターの音に、どこか3rdアルバム:Hambugを思わせる雰囲気を持った曲だなと思った。

アルバムSuck It And See以降、初の新曲シングル(アルバムに収録されていない単体曲としてのシングル)としてリリースされたR U Mine?は、PVこそモノクロであるが、曲自体はどこかアッパーな雰囲気を持っており、決して暗い曲ではなかった。


R U Mine?/Arctic Monkeys

なので、新曲:Do I Wanna Know?は、リーゼント以降(アレックスがリーゼントにして以降)の曲としては初めての暗い曲なのである。

Arctic Monkeysは自分の中でも1、2位を争うほど好きなバンドであるが、最近の傾向を見ていると新作を聴くのが少し怖いような気もする。
何度か記事を書いているThe Strokesとは違って、Arctic Monkeysはバンド自体のイメージ(ルックス的やスタイルのようなもの)が結構激しく変化しており、彼らがどこに向かかうのか、見ているだけでハラハラさせるものがある。
ちなみにSuck It And See以降の古き米国を思わせるロックなテイスト(Suck It And SeeのPVやジャケット絵のような、砂漠にバイクにマッチョが出てくるような陽気でタフな感じ)は結構気に入っていた。

 Evil Twin/Arctic Monekys

この曲はシングル:Suck It And Seeのカップリングであるが、かなり好き。
サビや間奏のうねるようなギターが格好良くて、何度も聴いた曲である。


Arctic Monkeysにはアルバムごとにある種の世界観のようなものがあるので、最近の傾向からすると、次作は骨太なロック+暗めのテイスト(無理やりまとめるならば、4th+3rdのテイスト)になるのだろうと考えられる。
アルバムごとに変化しているバンドのロゴについては、Do I Wanna Know?の最後に出てくる"AM"の文字のようになるのではないかと予想(現在のロゴは、公式HPのトップにて見ることができる)。

http://www.arcticmonkeys.com/splash/

2013/06/13

歌詞に当てられた焦点:Loser/Asian Kung-fu Generation


アジカンの新曲:LoserのPVが公開されている。
公式PVは下記URLより。

http://www.youtube.com/watch?v=RfBHVbo543o 

音源としては、先日リリースされたNANO-MUGENコンピレーション2013に収録されている。

この曲を初めて観たのは、NHKBSで放送されたザ・レコーディングという番組。
Beckのカバーということで、彼らにとっては新機軸の曲調。
イヤフォンで聴くと、いい意味でアジカンらしくない音を出している。

本作の歌詞は原曲のストレートな和訳ではなく相当に意訳が含まれているが、不思議と耳に残る。
率直に言って、ボーカル後藤氏の作詞スキルの高さを感じさせる一曲である。
「なう」というある意味新鮮なワードが出てきたり、直接的な皮肉や暗喩がふんだんに用いられていながらも、狙っている感がない(”なう”が新鮮かどうかは異論もあるだろうが、歌詞で用いられているのは新鮮に聴こえる)。
解釈は凡庸ではなく、適度にエッジが効いているが、気取った感じのいやらしさがない。

個人的に、アジカンの持つ魅力の一つは歌詞の秀逸さにあると思っている。

今でこそ”日本語ロック”というイメージが強いアジカンであるが、バンド活動の初期においては専ら英語詞による曲作りを行っていた。
メジャーデビュー以降の正式な音源は全て日本語である。
以前、後藤氏はNUMBER GIRLやEastern youthなどを引き合いに出して「日本語詞で曲を作ることの重要さ」を語っていた。
当時はあまり気にもとめておらず、「よくありそうな話」としか思っていなかったけれど、ここ最近の曲を聴いていると、歌詞の良さをしみじみと感じることが多い。
内容に共感するか否かは別の問題として、あくまで言葉の選択と配置の巧みさに対して。

「音楽で何かを表現する方法として、ラップはロックに比べて、そのリリックの負うところが大きい」といった発言もなされている。
「歌詞の占めるウエイトが大きいから」と。
これまでも「新世紀のラブソング」や「マシンガンと形容詞」のようにラップ調の曲はあったが、ここでさらにその傾向の強い「Loser」を選んできたのは、後藤氏の表現に対する意欲の現れであろう。

2013/05/27

バンドの秘めたポテンシャル/The Royal Concept

Summer Sonic 2013への出演も決まり、いよいよブレイク間近と見えるThe Royal Concept。
公式HPにて視聴できる新曲:On Our Wayはイントロこそ「Phoenix?」と思ったが、どっこい、これまでのイメージを覆す曲で驚かされる。


On Our Way(Teaser)/The Royal Concept
※下記URLのフル動画は”権利所有者によりブロック”されてしまい、観ることができない。公式サイトでも同様。
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=S-vHlvj0KBY

一聴したところ、浮かんできたのはColdplayのアルバム:Mylo Xyloto。
どちらかというと内向的な趣でインドアな印象であったデビューEPとは違い、この曲は開放的でスケール感の大きさすら感じられる。

カップリングはこちら。


Naked & Dumb/The Royal Concept

小粒な一曲であるが、十分あり。
ミニマムなイントロは、ストロークスあたりのガレージロックからの影響を感じさせる。
彼らなりのオリジナリティはシンセの音か。
(どちらもiTunes日本版では未リリース)

一方、2月にリリース済のWorld On Fireも、またこれとは違ったテイストの曲であった。


World On Fire(Live In Basement)/The Royal Concept


デビューアルバムリリース前にして、この振り幅…!

よく言えば引き出しの多いバンドであり、悪くいえば方向性の散漫なバンドとも言えるだろう。
敢えてあげつらうようなことを言えば、The Royal Conceptの色というものがどういったものであるのか、いまいち掴めない。

しかしこれらの曲を聴いていると、そんな些細なことなどどうでも良くなってくる。
曲のキャッチーさやクオリティの高さは見てのとおり。
バンドの秘めたポテンシャルは未知数である。
期待度は高い。

The Royal Concept公式サイト
http://royalconceptband.com/onourway/

2013/05/16

稀有な名曲:She's Got Standards/The Rifles

何の根拠もなく、ただ単に感性に基づいた話であるのだが、個人的に、これぞブリティッシュロックの王道と考えている曲がある。
英国はロンドン出身のバンド:The RiflesのShe's Got Standardsという曲である。

以前はYoutubeにPVがアップされていたのだが、今はレコード会社の制限によって日本国内からの視聴ができないようになっている。

曲の視聴は下記URLリンク先にて。
http://www.youtube.com/watch?v=XvwX0iB-xBw

2006年発売のRock'in On 10月号の付録CDに収録されていた曲である(ちなみにThe Riflesの他にはLily Allen、Fly Leaf、Little Barrieなどが収録されていた)。

ちなみにブリティッシュロックとは何ぞやということはあまり深く考えておらず、ただ曲を聴いて”これぞ王道!”と思っただけのことなのだが、この曲がどうしても好きで、未だに”ハズレのない曲”としてたびたび聴いている。

徐々に勢いづいていくイントロのギターに英国バンドらしいボーカルの声。
3分程度の長さに、抑揚がうまく収まっている。

ハズレのない曲とはいつ何刻聴いてもその良さにゾクゾクするような曲のことをいっており、そういった曲というのは無論、いくつもあるわけではない。
どんなに好き好んで聴いている曲であっても、やはり普通は聴く時期と聞かない時期というものがあるだろう。
この曲はつまり、どういったタイミングで聴いてもその良さを実感できる、自分の感性にピタリとはまった稀有な曲なのである。

2013/05/14

混沌: Amok/Atoms For Peace

Atoms For Peace


今更感が満載で、1周どころか既に数周遅れな話題であることは請け合いなのだけれど、Atoms For PeaceのAmokを聴いた。

Radioheadは好きだし、Tom Yorkのソロも聴いていたのに、何故かこのアルバムだけは聴こうという発想がなく、音楽好きな友人からアルバムを買ったという報告を受けたときも当たり障りのない返事で聞き流していたのだが、ひょんなことから一聴して見事にはまってしまい、思わずiTunesストアで購入した。
たまたま街でかかっていたBGMが気になり、例のごとくshazamで読み取ったところ、本作1曲目のBefore Your Very Eyes...であったのである。
シングルカットされた#2:Defaultも、病み付きになる曲である。

Radioheadの中でも、個人的にはよく聴くKid AおよびAmnesiacの2作に近い雰囲気を持っており、非常に抽象的でありながら何度も聴かせる中毒性は見事としか言いようがない。
無機的な電子音主体の音作りでありながら、Tomの裏声と響くようなエフェクトが不思議と有機的な雰囲気を醸しだしており、暗い印象ではあるが冷徹な雰囲気でない。

Atoms Foe Peaceという”バンド”とこういった曲とがどうしても結びつかなかったのだけれど、以下のようなライブの様子を見ると、納得。
混沌。意図してやっているのか、無造作にやっているのか分からないが、一聴の価値あり。


And It Rained All Night/Atoms For Peace

どういったかたちで曲作りが行われているのかが、非常に興味深い。

2013/05/08

ファーストインプレッション:Modern Vampires Of The City/Vampire Weekend


http://www.vampireweekend.com/
Vampire Weekendの3rdアルバム:Modern Vampires Of The Cityがリリースされた。

本国アメリカでは上記画像のように発売日が5月13日へと延期されたが、日本では予定どおりリリースに至ったようである(先行リリースと謳われている)。


バンドとして初めて、外部プロデューサー(アリエル・レヒトシェイド)を起用しており、”オーガニックなサウンド”が売りという本作。
これまでとは違ってニューヨークではなくロサンゼルスで、ボーカルの録音は部屋の窓を開けて行われたそうである。

大きな方向転換はないものの、バンドとしての変化は見られる。
全体的には、豪華な音作りになっていると感じた。特に、スケール感の大きな曲(#2:Unbelievers)や強い威力を持った曲(#3:Stepや#4:Diane Young等、余裕でシングルカットできるような曲)の存在は、バンドが円熟しつつあること、またメジャーになったことを感じさせる。
ボーカルのエズラ・クーニグ曰く「年齢を重ねるほどクールになっていったウディ・アレンのように、歳をとるにつれて失われるエネルギーの代わりにエレガンスさを獲得する、そんな方法論を音楽に持ち込みたいと思った」とのこと。
前作のような若さやポップさは確かに影を潜めていると感じる。
エズラは今年で29歳。バンドとしても歳を重ね、転換期を迎えているということか。

アルバムの全曲は下記にて試聴可能。
http://hostess.co.jp/xl/vampireweekend/news/2013/05/002483.html




#1:Obvious Bicycleはアルバムの前評判どおりオーガニックなサウンドの一曲。穏やかにアルバムの始まりを告げる。
#2:Unbelieversは軽快なオルガンの音が何ともご機嫌な曲。ほのぼのとした出だしから軽快に抑揚を見せる曲調と、”I know I love you, and you love the sea”と高らかに歌い上げるボーカルはとても良い。
#6:Hannah Huntは、終盤、唐突に盛り上がりを見せるピアノの音が印象的。
#4:Diane Young、#10:Ya Heyはボーカルにかけたエフェクトが面白い。


まだ全ての曲を聴き込んでいないが、ファーストインプレッションは非常に良い。
オーガニックで有機的であるが、アルバムの空気は緩んだものではない。
むしろこれまで以上にスマートな作品ではないか。

PVやジャケットから感じられるものは、バンドの活動拠点であるニューヨークの姿。
本作は、これまで以上にその都会的な部分が押し出されており、それがアルバムのバックボーンに洗練されたイメージを与えている。
Vampire Weekendの魅力である平和的な雰囲気は変わらず保たれており、ところどころにくすぐったいような仕掛けも見られる。ジャンル不明とも言える曲調も健在。


クレバーでウィットに富んでいながら、一方で捻りやハズしも見られ、エッジも効いている。
この何ともハイセンスな感じが、やはりVampire Weekendの魅力であるなと思った。
余談であるが、Photo By Neal Boenzi/New York Timesとクレジットされたアルバムジャケットも格好いい。

2013/04/22

毒されそうな音楽/Foals

不穏なメロディが耳について離れない。
何の曲かと思っていたら、FoalsのBaloonsであった。

Baloons/Foals

公式のPVは以下のリンクからも。
http://www.youtube.com/watch?v=zHcOFmiswcQ
奇妙な動きもなかなかだが、間奏部分で流れるメロディが相当に印象に残る(上の動画で1:44以降)。
こういう曲を作るバンドってなかなかいないと思うのだ。

そして、Foalsといえば、この曲。


Cassius/Foals

こちらのPVもなかなか。天井からぶら下がった肉塊(心臓?)が何を意味しているのかは分からないが、バンドの特徴的なダンスも面白い。
どちらもデビュー作であるAntidotesより。
アルバムタイトルの意味は、解毒剤。
こんな曲を聴かされたら、逆に毒されそうな気がしないでもない。
ジャケットもなかなかに奇妙。

最近の曲は全くチェックしていなかったのだが、聴いてみるとどうも平凡になってしまっている気がする。
やはり、1stの頃の非凡な感じが良い。

最新アルバム:Holy Fireからの数曲は、以下のリンク(バンドの公式サイト)にて視聴できる。
http://www.foals.co.uk/video.htm

フォールズは、イングランドオックスフォード出身のロックバンド。テクニカル且つダンサブル曲調が持ち味。2008年に発表したアルバム『アンチドーツ 』でUKチャート3位を獲得。ブラーやR.E.M.等の前座も経験している。(Wikipediaより) 

2013/04/21

最近のブーム:Vampire Weekend

http://www.vampireweekend.com/

Vampire Weekendにハマっている。
ごちゃごちゃして有機的で、時に優美で、エッジの聴いている曲は良いし、バック・トゥ・ザ・フューチャーとか言われているボーカルのルックスも良し、ジャケットや公式サイト等含めたイメージも格好いい。
特に気に入っているのは、以下のPV。

Cousins/Vampire Weekend

また、今年のコーチェラでのライブの様子も、Youtubeにアップされている。



さらに、発売日が1週間ほど延期になり、5月13日にリリースされる予定の3rdアルバム:Modern Vampires Of The Cityより、2曲の新曲が先行公開されている(冒頭リンクの公式サイトにて、2曲とも視聴可能)。
古きアメリカンロックの雰囲気に、彼ららしい畳み掛けるようなリズム、不穏な管楽器の音を乗せたDiane Young、クラシカルでノスタルジックな雰囲気で、彼らには珍しいストレートな良曲であるStep。

新作が楽しみでならない。

2013/04/18

アルバムレビュー:Comedown Machine/The Strokes



Comedown Machine、傑作である。
リリースされてからというもの、安定して聴き続けている。

本作と同じ傾向を持つ前作:Anglesは、当初、真新しさと意外性によって興味を引くものであったが、長い期間に渡って聴き続けられるものではなかった。
特に気に入った#2:Under Cover of Darknessは何度も繰り返し聴いたが、しばらく経つとそれにも飽きてしまい、その後、アルバムを聴こうとする機会はあまりなかった。
バンドのイメージを覆す音楽性に革新性こそ感じたが、アルバム全体としてまとまりがなく、その完成度は一つの作品として長い間寄り添うことには耐えられなかったのだ(まとまりのない点は、Anglesというタイトルから考えると批判すべきところではないかもしれないが)。

今作はどうであろう。
以前書いたように、パッケージングは至ってシンプルであり、新しく撮られたPVもないため、アルバムに対する視覚的なイメージはジャケットに用いられている赤い色くらい浮かばない。
しかし、それが逆に曲ごとへの関心を際立たせるのか、全体としての印象は悪くない。
逆説的であるが、曲ごとの繋がりがない故に作品としてうまくまとまっているとも感じる。
アルバムを通して収録された順に聴くようなものでもないだろうが、なぜかシャッフルする気になれない。
言わずもがな、ストロークスの他のアルバムと合わせて聴こうという気にもならない。

それくらい、一つの作品としての存在感が大きいと感じた。

バンドのメンバーが各々のスタイルを持って曲を作り始めた前作からの手法が、ようやく身を結んだといったところか。
曲ごとがバラバラでうまくまとまらなかった前作とは違い、本作はそういった手法をバンドの色としてうまく昇華できている。

各曲のレビューを書く。


#1:Tap Out
曲の始まりに挿入されるギターの音が、まず、1stアルバム:Is This It?の一曲目:Is This Itを思わせる。無機質に、忙しなく鳴らされるギターのリズムに、緩慢なメロディ。当初、背景には不穏な雰囲気の電子音が流れているのだが、サビの前でそれらがすっと消え、急に音がクリアになるところが気に入っている。落ち着いていてシンプルな曲のようでありながら、よく聴くと凝ったつくりをしていることが分かる。

#2:All The Time
意外性のある一曲目に対して、安定的でストロークスらしい曲。懐古的である。イントロのギターやサビのメロディなど、旧来のストロークスを思わせる。アルバムの先行シングルでありながら、良い意味で際立った存在感がない。

#3:One Way Trigger
テンポの良いラテンテイストの曲。ささやくようにスッと入ってくるイントロが、この曲のスケール感を大きく感じさせる。初めて聴いたときは癖の強い曲だと思ったが、何度も聴いているうちに馴染んできた。初回のサビの前、少し間を開けてカチカチと鳴らすところが駆動する機械のようであり気に入っている。Julian Casablancasの公式サイトにアップされていたイメージ画像(画像のリンクは切れているが、バンドの公式サイトにて閲覧可能)のごとく、荒野を駆け抜ける少しレトロなイメージ。

#4:Welcome To Japan
怪しげな印象に一聴してはまった曲。Japanと聞いて、電飾の盛んな新宿あたりの繁華街をイメージした(喧騒ではなく、あくまで映像として)。サビのメロディやジュリアンの囁き(Oh welcome to Japan! Scuba-dancing! Touch down!)は癖になる。

#5:80's Comedown Machine
アルバム中最もスローなテンポの曲。深く潜っているかのような感触がある。雰囲気は3rdアルバムの#7:Ask Me Anythigに似ている(聴き比べてみると、こちらの曲の方が余程複雑な造りをしており、図らずもバンドの変化を感じることとなった。3rdアルバムはゴテゴテしたイメージであったのだが)。

#6:50/50
アップテンポで格好いい。急かすようなギターと、合いの手のように少し遅れて入るギターとの合わせが心地よい。曲の雰囲気は1stの9曲目:New York City Copsに近いものがある。

#7:Slow Animals
シックな雰囲気の曲。全体的に暗いトーンだが、どこかスタイリッシュで格好いい。

#8:Partners In Crime
ポップで、これまでのストロークスにはなかった新たなテイストの曲。ぴょんぴょん飛び跳ねるようなメロディが好きで、アルバム中最も気に入っている。こういった曲に出会えると、アルバムを手にとって良かったと心から思う。

#9:Chances
普段通り男性的なボーカルと、女性的なボーカルとが混在しており、不思議な雰囲気を持つ。落ち着いて聴ける曲である。2:57以降、曲の雰囲気が変わり終わるところが、Keaneの2ndの雰囲気に似ていると思った。

#10:Happy Ending
オーソドックスでストロークスらしい曲である。この曲が唐突に終わった後、#11がエンドロールのように流れ始める。

#11:Call It Fate, Call It Karma
古いフィルムに出てくる女性ボーカルのような雰囲気。初めはちゃんと聴いていなかったのだけれど、聴いてみると意外といい曲。アルバムの終わり方としては何とも湿っぽく、余韻が残る。


あらためて全曲聴いてみると、一見シンプルであり、全体的にレトロなテイストや外したテイストの曲が多いにも関わらず、細部に至るまでとても良く作りこまれていることが分かる。
こういった傾向は3rd以前には見られなかったものである。

1st、2ndはもはやストロークスとしてのクラシックであり、過去の作品として捉えるべきではないか。
別の記事でも書いたとおり、ストロークスらしさは変遷しており、それは否定されるべきものではない。
古いストロークスに魅力を感じ、もう一度あの頃の音楽を、と考えるファンは多いだろうが、現状のストロークスをみる限りそれは御門違いというものだろう。

音楽の嗜好というものは日々多様化・拡大しているため、一つのバンドが特定の傾向に縛られ続けることは、バンド自体を殺すことになりはしないか。
変わりゆく環境の中で確固とした個性を守り続けることに価値がないとはいわないが、少なくともストロークスにとっては、それがベストだとは思えない。
旧来のものを守り続けることが、彼らの求めるストロークスらしさではないだろう。

数多の憶測と共にバンドの解散が囁かれているが、本作を聴いて、これからもストロークスとしての変化を見ていたいと強く思った次第である。

2013/04/10

邦楽バンドが面白い/キュウソネコカミ・モルグモルマルモ

NAVERまとめサイト(下記リンク)にて紹介されていたバンドが総じて良い。


【邦楽】ネクストブレイク!2013年、今聴くべき邦楽ロックバンドまとめ
http://matome.naver.jp/odai/2136436459105340401


僕はどちらかというと洋楽に興味があるタイプで、邦楽バンドは、個人的に気に入っている少数のバンドや、少し古い曲しか聴くことがないのだけれど、たまにこうやって新しい邦楽バンドを開拓してみるのもなかなか面白い。

特に良いと感じたのは以下のバンド。
どちらも関西を中心に活動している。


キュウソネコカミ

 
サブカル女子/キュウソネコカミ

サブカル女子に対して、痛烈に毒づいているだけの曲。
ああサブカル女子だなあ…というワードをひたすら連発するテンポの良い歌詞が心地良い。
手作り感のあるPV。

さらに、手の届きそうな距離感。

DQNになりたい、40代で死にたい/キュウソネコカミ

非リア充を標榜する彼ら。
キュウソネコカミの曲が扱う対象は、抽象的で当たり障りの無いものではなく、かといって一部の人間にしか分からないような固有のものでもなく、一定数はいるであろう”知っている人”であれば、くすりと笑えるような、そんなほど良い距離感を持っているように感じる。



モルグモルマルモ
http://morgmolmalmo.official.jp/
 
タクラマカン砂漠/モルグモルマルモ

NAVERまとめにも書いてあるように、歌詞やメロディがフジファブリックっぽいと感じた。
”タクラマカン砂漠”という名称を用いたことに、何かしら理由があるのだろうか。
誰もがどこかで(主に学生時代の地理の授業なんかで)耳にしたことがある単語であろう。響きの面白さでチョイスしていると思われる。
砂漠をモチーフにした歌詞は、なかなかよく出来ている。

彼らを見ていて受けた印象は、”バンドメンバーが自分たち自身のやりたいことをやっているように見える”ということ。
世間に求められるものを作ろうとしてやっているのではなく、自分たちがやっていて楽しい音楽をやっているような印象。
音楽のジャンル的なものも出尽くして、流行り廃りを何度も繰り返して至っている現代において、”やりたいことやるのが一番じゃない”?的なところに落ち着いているのが彼らのスタンスであると思う。
確かに、一昔前のように”一発当ててロックスターに成り上がる”といったイメージは、現代的ではないように感じる。


キュウソネコカミ、モルグモルマルモ。両者とも、若手のバンドの割には曲のクオリティが高い。
今、興味を持った音楽はネットで簡単に手に入るし、参照できるサンプルも無数にある。
彼らが持つ”早熟なのに妙に高いクオリティ”というアンバランスさは、そういった環境に支えられているものだと思う。
中性的で敷居が高くない点も踏まえて、何とも現代的で良いなと感じた次第である。

2013/03/29

バンドの一つの転機 Comedown Machine/The Strokes

Comedown Machine(輸入盤)を購入した。

国内盤には、ボーナストラックとして#12:Fast Animalsが収録されていたが、この曲は#7:Slow Animalsのテンポを早くしたものである(アルバムに収録されなかった別バージョンだろうか?)。
収録されたテンポの遅い曲がSlow Animalsでテンポの早い曲がFast  Animalsとは何とも単純であるが、この1曲に価格差ほどの価値が見出せず、輸入盤を購入。
ちなみにFast Animalsは現時点で、iTunesストアでも販売されていない。

細かい点ではあるが、アルバムジャケットに記されたアルバムの長さである39minutes 55secondsが、国内盤ではボーナストラック分長く43minutes 44secondsと記されている。
一般的なアルバムジャケットというものが、音楽作品の表紙として、その作品自体に決して小さくない影響を与えるものであるのに対して、Comedown Machineのジャケットはあくまでパッケージなのであると感じた。
敢えてそうしていることに何らかの意図はあれど、そのデザイン自体には、ほとんど意図などないのではないか。

アルバムを聴いたファーストインプレッションは、”格好良い”。

ジャケットにも現れているとおり、至ってシンプルな作品である。
前作と同じく歌詞の封入はなく(国内盤も同じであり、対訳も含まなれていない)、ジャケットとCDの他、バンドメンバー5人のシルエットが写された紙が入っているのみ。ジャケットの質感も、簡素なものである。
アルバムプロモーションが行われていないことや、バンド自身が作品について全くと言っていいほど何も語っていないところから考えても、やはり至ってシンプルな作品である。
今回の作品の特徴は、この、極めて純粋に、音楽のみが表現されているところにあると思う。

音楽を聴いてみると、世間一般のストロークスのイメージである1st〜3rdの感じではない。
しかし、至ってシンプルに曲だけを聴いてみるとどうであろう。とても格好良いのである。

各曲ごとのレビューは別の機会に譲るとして、アルバム全体の印象を総括すると、”なかなか侮れない作品を出してきたな”というところである。

名前の売れたバンドの出す作品はどれも、バンド自身の名前によって良い方向に評価されがちであり、純粋にその音楽だけを見たときに、同じような評価が得られるのだろうか…などと、最近そんなことを考えていたのだが、そういった観点からこの作品を考えてみると、The Strokesというバンドが、バンドとしてのアイデンティティを解体し、初期の頃の曲作りというものを捨て、至って自然なかたちで、メンバー5人で作品を作り上げようと努めていることがよく分かる。

この作品は、The Strokesというバンドの一つの転機となるであろう。
そう感じさせるアルバムである。

2013/03/20

ストロークスらしさとは Comedown Machine/The Strokes

アルバムレビューはこちら:Comedown Machine/The Strokes
http://altblg.blogspot.jp/2013/04/comedown-machinethe-strokes.html


27日に発売予定のThe Strokesのニューアルバム:Comedown Machineであるが、発売に先駆けて、Pitchforkにて全曲フル試聴が開始されている。

http://pitchfork.com/advance/48-comedown-machine/

先行公開されていた2曲(#2:All The Time、#3::One Way Trigger)はどちらも既存のストロークスらしさを感じさせる曲であり、アルバム全体の傾向もその域を出ないものであろうと思っていたのだが、それは大きな間違いであった。このアルバム、どの曲も曲者ばかりである。問題作と言っても良いかもしれない。
例えば#1:Tap Outなんて、どこかで流れているのを耳にしたところで、ストロークスであることに気がつかないかもしれない(試聴していて、”これ、本当にストロークス?”と確認したくらい)。


既存のストロークスらしさを最も感じさせる曲は、先行リリースされている#2:All The Timeである。
下記URLにてPVが視聴できる。

https://www.youtube.com/watch?v=TJC8zeu3MHk

この曲は、前作:Anglesにおける#2:Under Cover Of Darknessと同様の位置づけの曲だと思う(Under Cover Of Darknessも、前作の中においては”最も既存の曲らしい曲”であった)。
PVは、過去のライブの映像や他の曲のPV撮影風景、バンドの姿を写したものである。
"新作のリリースに合わせて、プロモーション活動やツアー等は行わない"と事前に公言していたため、あえてPVを撮影するために何かをするということがなかったのだろうが、こういう、ある意味”バンドの過去を総括する”的な映像を見ると、どうも、一区切りついたという印象を受けてしまう。
深読みし過ぎだろうか。


ストロークスは一時期(具体的には2006年リリースの3rdアルバム:First Impressions Of Earthのツアーが終了した2007年から、2011年リリースの4thアルバム:Anglesを製作するまでの期間)、バンドとして迷走しているように見えた。
ボーカル:Julian Casablancasのソロ活動に代表されるように、それぞれのメンバーが個々の活動に力を注ぎ、バンドとしてはまるで空中分解したかのような状態であったのだ。

世間的に圧倒的な支持を得ているストロークスの1st、2ndアルバムは、全ての曲がジュリアンによって作られていた(作詞・作曲ともに)。
3rdアルバムでは一部の曲に他メンバーの名がクレジットされるようになったが、それでもやはり全ての曲は、1st、2ndと同様、ジュリアンによって作られたものであった。

このような状態をバンドにもたらした原因は、各メンバーのバンド活動への貢献度合いに著しく差が出ていたことによる、メンバー間の軋轢である。
最も重い役割を担っており、同時に最も大きいフラストレーションを感じていたのは、いうまでもなくジュリアンである。

3rdアルバムのリリース後、5年という長期間のブランクを経てようやくリリースに至った4thアルバムは、ジュリアンと他メンバーとの間で、E-mailによるやり取りを行いながら作られた作品であるそうだ(ジュリアン曰く、自らが曲作りにおいて主導権を握り、他メンバーがそれに追随する既存の方法から脱却し、他メンバーが積極的に曲作りに関わるようにするため、あえてそうしていたとのこと)。
ギターのNick Valensiはその手法に苦言を呈しており、もう一人のギターであるAlbert Hammond Jr.は当時付き合っていた彼女と破局、ドラッグ中毒になっており、バンドの状態は過去最悪のものであった。

そんな状況を経てリリースされた4thアルバムは、ストロークスの最大の持ち味である(少なくとも世間を騒がしたストロークスが持っていた)シンプルでストイックな音が影を潜め、エフェクトのかかったボーカル、キーボード、そして多様な電子音を駆使した、それまでの作品とはまるで違ったテイストのものであった。
世間の評価は割れたが、概ね芳しくないものであったように思う。


解体しつつあったバンドがその製作過程を改め、各メンバーの個性を反映しようと努めた初めてのアルバムである前作に続く本作は、前作以上にその傾向が強くなっている。
日本のメディアを見る限り、”名作!”という声が多いようである。
反面、海外メディアではその評価が割れている(総じて、あまり良くないように思う)。

個人的には、新たな音楽性を開拓している点と、空中分解していたバンドが再度結束しアルバムを作り上げたという点を評価をしたいが、2000年代初頭、世界的にその人気が下火であったロックンロールに復権をもたらしたとされる、まさにその当時の”ストロークスらしさ”はもはやここにはない。
多くのファンが期待しているであろうストロークスらしさを再度、表現するためには、以前のようにジュリアンが主導して曲を作る他はないだろう。しかし、それは、ジュリアン曰く”公平でない”し、今となってはストロークスのやり方ではない。
以前のストロークスらしい作品を作ることは決して前進ではないだろうし、彼ら自身がそういった方法を選ぶことはないだろう。

彼らが今後、どういった方向に進むのかは分からない。
一度、行けるところまで行ってしまった上で、再度元の手法に回帰するような気もする。一方、このまま進み続け、バンドが本当に分解してしまうような気もする。
果たして、バンドは新たなストロークスらしさを獲得し、自らを次の次元へと押し上げることができるのであろうか。
前作と傾向の似た本作であるが、一番の違いは、バンドメンバーが同じ場所で曲作りを行ったことである。前作では他メンバーと距離を置いていたというジュリアンが同じスタジオで製作に関わっていたという状況から考えると、バンドの状態は改善しているといえるかもしれない。


ストロークスの解散はあるか。

他のバンドを引き合いに出すと、Oasisは唐突に解散してしまったが、ノエルとリアムは兄弟仲が悪いところが”キャラ”であり、世間的にも受け入れられていたから、彼らの決裂は文脈的にも比較的納得のいくものであった。
それに比べ、ストロークスはどうだろう。これは個人的な印象でしかないが、彼らは比較的ビジネスライクな判断を下すように思える。
ロックバンドにロックらしさを求める時代でないのは分かっているが、バンドメンバーのすれ違いによって、唐突に解散でもされてしまうと、どうしても納得などできないように思う。


ジュリアンの主導によって作られていた1st、2nd、3rd、そして各メンバーの参加によって作られた4th、5th。
バンドの変化は、起こるべくして起こっているようである。
彼らが今、追い求めているストロークスらしさとは、一体何であろうか。今後、バンドが選択する方向によって、それが明らかになる。

2013/03/04

バンドの新たな一面:今を生きて/Asian Kung-fu Generation



アジカンのニューシングル「今を生きて」が2月20日にリリースされた。
映画「横道世之介」のタイアップということでYoutubeで先行公開されたPVの一部を見ていたのだが、気がついたらリリースされていて、それをiTunesストアにて知った(レコメンドされていたところを発見した)。

昔はアジカンの新曲といったら、初オンエアとなるラジオをMDに録音して、リリース前から何度も繰り返し聴くくらいであったが、今や新曲のリリース日すら、"気がついたら訪れている"というほどである。

とまあ、アルバム:ランドマークのリリース後、しばらく注目をしていなかったアジカンではあるが、iTunesストアで買えるということで購入。アジカンの曲をiTunesで購入するのは、昨年秋に取り扱いが始まって以来、初めてである。

手軽にレビューを読み、気になればiPhoneから購入し、すぐにダウンロードされるという仕組みは非常にスムーズ。特に、試聴しながらすぐにレビューを読めるという点が良い(ジョブズが亡くなって以降、apple製品のUIの凝り具合がいまいち好きになれないのだが、iTunesストアで試聴しながら他のページに遷移できるようになった点は評価している。不安定だけれども)。

この手の曲にしては意外であったのだが、レビューの評判がすこぶる良い。
映画のイメージにマッチしているからだろうか。

テンポの早くない曲、格好いいというよりも味のある曲で評価されるようになった点は、バンドの成長であろう。どこかで、”良い意味でoasisのようになった”と書いている人を見たが、あながち言い過ぎでもないと思う(ナローなペースの良曲:迷子犬と雨のビートもoasisのようであったが)。
ドラムの音(太鼓のような重めの音でリズムを刻む)で始まり、静かな鈴の音が流れ出す出だしが好きである。

しかし何と言っても、今回の収穫はc/w:ケモノノケモノである。
ここまでピアノを全面に押し出した曲は、バンドにとっての新たな試みである(曲として斬新というわけではないが、アジカンにしてこの曲というのが新しい)。
しかも、良い。
ピアノの音は、その初めての試みが少し照れくさいかのように、右へ左へ、無造作に駆けまわる。
ケモノとは言っても、決して”獣”ではなく、どことなくチャーミングなイメージの曲。

こういう、肩の力を入れない、ライトな良曲を生み出せるようになったのは、バンドの明らかな成長であると思う。
バンドの新たな一面を見せる新作である。

2013/02/22

ニューアルバム Bankrupt!/Phoenix

http://www.wearephoenix.com

Phoenixが、4年ぶりの新作となるBankrupt!を発表した。
バンドにとって5枚目のアルバムである。


  1. Entertainment
  2. The Real Thing
  3. S.OS. In Bel Air
  4. Trying To Be Cool
  5. Bankrupt!
  6. Drakker Noir
  7. Chlonoform
  8. Don't
  9. Bourgeois
10. Oblique City


Entertainment/Phoenix

アルバム冒頭の1曲目:Entertainmentは既にリリースされている。

どことなく欧州の匂いのする前作Wolfgang Amadeus Phoenix(2009)とは違い、東洋を感じさせるメロディ。
バンドに特有の、同じ単語を余韻のように重ねる歌詞は健在であり、電子的なキーボードの音で奏でるテンポの良いメロディと、規則的な打ち込みのリズムが曲を支える。
映像は真っ黒い背景に筆記体で書かれた歌詞からなっており、曲の終盤にはアルバムジャケットともなっているりんご(りんごだろうか?ジャケットを見ると、オレンジがかっている果物である)の画像が現れる。

恐らく本作のメイン曲ではないと思われるが、バンドの新しい雰囲気を予感させる一曲である(メインは恐らく、アルバムタイトルと同名の6曲目:Bankrupt!だろう)。
これまでの作品から考えると、おそらく全曲がキャッチーで踊れる…!という内容ではないと考えられるが、バンドの新作がどのような雰囲気を持っているのか、今から楽しみである。
iTunesストアでは既にプレオーダーが開始されている。

http://smarturl.it/Bankrupt

4月22日のリリースが待ちどおしい。

2013/02/06

Cities 97 Studio C/Keane




アメリカはミネソタ州、ミネアポリスのラジオ局:Cities 97にて先日収録されたKeaneのライブ音源がリリースされており、下記のサイトにてストリーミングで聴くことができる。

http://www.cities97.com/pages/BreakingNow.html?feed=421800&article=10730426

間に短いインタビューを挟んで、Silenced By The Night、Sovereign Light Cafe、Somewhere Only We Knowの3曲が演奏されている。
曲数は少ないが、アコースティックな演奏で曲の良さが際立っており、Keaneのソングライティングの素晴らしさを堪能できる内容となっている。
原曲とは違ってギターを用いて演奏されているSomewhere Only We Knowも良い。

Keaneのライブ音源といえば、デビュー当時にリリースされた「Live Recordings 2004」というアルバムがある。

http://www.amazon.co.jp/Live-Recordings-2004-Keane/dp/B00080SE3C/ref=ntt_mus_ep_dpi_13

リリース当時にレコード屋で試聴し、とても良く感じられた記憶がある。
トムの歌声はライブで聴いても全く遜色なく、むしろCD音源以上に熱を込めて歌いあげるライブパフォーマンスでこそ、引き立っていると感じる。

シンプルに演奏された時に曲の魅力が増すのは、無論メロディが優れているからである。
上記音源を聴いて、デビュー当時から一貫しているKeaneの曲の良さを実感した次第である。

2013/02/03

手の届かない音楽:Welcome to the jivin'/Foxes!



どこぞで流れていて耳にした曲だが、軽快なポップ・ロックに女性ボーカルが小気味良い一曲である。

良質なポップソングは巷に溢れているが、どれも似通って聴こえてしまうというのが正直なところで、そういった曲の中で、敢えて聴こうと思える曲と出会えることは少ない。
繰り返しになるが、ある程度の質の音楽というのは世間に溢れており、”どれも似通って”聴こえてしまうからこそ、ふとした瞬間に自分の琴線に触れるようなことがなければ、敢えて手に取る機会はまずない。
その曲が広告やタイアップとして世間に流される機会が設けられていたり、或はそこに何かしらのエピソードが付随していたり(例えば、楽曲がYoutubeで数多くのアクセスを稼いだり)などしていれば、曲のことを知ることもできるのだが、そういった機会に恵まれない数多の楽曲たちは、世間に発表されはしても、大した関心を集めずに埋もれていってしまう。そうして、異国の無名なバンドの曲はついぞ、我々の耳に届くことはない。

街中で気になる音楽を耳にして、すぐにその場で調べて曲と出会う、ということがiPhoneを持ち歩くことで可能になったわけだが、これは露出する機会の少ない楽曲を手に取る機会を作っているという意味で、とても大きなことだと思う。

上記のリンクはiTunesストアだが、この曲はGoogleで調べてもYoutubeで調べても見つからない。フルで聴こうと思ったら、購入するしかないという、何ともじれったい状態である(Foxes!で検索すると、たいていFleet Foxesが出てくるので困っている)。

Last.fmのアーティストページ:http://www.lastfm.jp/music/Foxes!

2013/01/16

バンドとの付き合い方/Arctic Monkeys

「好きなアーティストは?」と聴かれたときに回答として思い浮かべるアーティストには、なんだか見栄を張って”自分はこうだ”と、人に見られたいイメージを重ねてしまいがちである。
イメージとは少し言い過ぎか。しかし、見た目に限らず、音楽性、立ち位置、はたまたそれらのアーティストを聴いている層が一般的にどう見られているか(逆にどう見られていないか)…といった点は、どんなアーティストを手にとるかを左右する要素の一部を成していると思う。
気負い過ぎかもしれないが、音楽が所謂ファッションの一部を成していることは周知のところであろうし、あながち的はずれな指摘でもないと思う(反面、音楽は見栄で聴くものではないとも思う。矛盾である)。

数年前まで、冒頭の問いに対する自分の回答は、Arctic Monkeysであった。
簡単に言うと、バンドの持つイメージに憧れたのである(単に"ロックバンド"としてのイメージに対してではない。もしそうであれば、自分は今頃ギターを弾いていただろう)。
彼らは歳が近いということもあるし、また若くして規格外の成功を収めているということもある。Youtubeにアップされたグラストンベリーの動画などを観ると、数多の観衆を前に、平然と演奏をやってのける彼らの姿がある(当時2007年、バンドのメンバーは齢21である…!)。
今思えば、"見た目には普通の青年、やっていることは規格外のロックスター"という単純な構図に惹かれたのだ。フロントマンであるAlex Turnerのポーカーフェイスも最高にクールに見えた。

Arctic Monkeysを聴き始めたのは、ちょうど2ndアルバムの頃である。2nd、そして1stを一緒くたにして、しばらくの間ずっと聴いていた。バンドに興味を持つきっかけとなった曲は、2ndのWhen The Sun Goes Downだったと思う。
凝りすぎていない、でもそれでいて退屈でない。シンプルであり、等身大であり、かつエッジが効いている。手の届きそうな音を鳴らしながら、手の届かないところにいる。捻りが効いていて、クールでいて、踊れる。
”ブリティッシュロック”という概念についてそれ程深く理解しているわけではないが、”これぞ現代のブリティッシュロック”と思って聴いていた。

音楽性やバンドのビジュアルも歳を経るごとに変化しているが、3rd、4thもやはり好きなアルバムである(好きなバンドのアルバムは、大抵捨て曲なしと思える。逆に言えば、捨て曲がないと感じられるバンドこそ、本当に自分が好きなバンドなのだと思っている)。

前置きはこれくらいにするとして、最近、ふとArctic Monkeysの曲を聴いてみた。それも、1st、2nd時代の曲である。
今聴いてみると、驚くほどに若い。バンドも若い、その曲を好んで聴いていた自分もまた、若かった。熱を持って入り込んでいた当時とは違って、今は少し距離を置いて曲を聴くことができる。

バンドの年齢と共に自らも歳をとっているわけだから、その変化には順応できる。1st、2ndとテイストが違うからといって、新しいアルバムが退屈には感じない。
いつまでも若い頃の衝動を持ち続けるバンドというのも多いが、個人的にはそれでは疲れてしまいそうな気もする。

作品を重ねるごとに、その軌跡を追い続けたいと思えるバンドがいることは、幸せなことだと思う。それが同世代のバンドであるなら、なおさらである。
今となっては、以前のようにバンドのイメージに自らを重ねてコミットメントするようなこともない。良い意味で、音楽と対等な関係で、いわばフェアな関係で付き合えるようになったと思う。
久しぶりにArctic Monkeysを聴いて、ふとそんなことを考えた。

2013/01/04

ドライバーのフィルム・ノワール/Drive

Drive
http://drive-movie.jp/
http://en.wikipedia.org/wiki/Drive_(2011_film)



ライアン・ゴズリング演じる主人公ドライバーが、思いを寄せる隣人のために犯罪に加担してしまい、暴力沙汰に巻き込まれる。

舞台はロサンゼルス。
主人公は表向きには、自動車工場で整備工をし、ときどき映画のスタントシーンのために車を運転するドライバー。裏では、強盗犯を現場から逃がす仕事を請け負っている。決められた場所から場所へとクライアントを安全に移動させること、そして、5分だけ待つこと、その二つを条件とし、極めて淡白に、そして確実に、眈々と仕事をこなす。

主人公の持つ運転技術の高さ、そして確実に仕事をこなす徹底ぶりは、冒頭のカーチェイスシーンによって表現されている。運転に関しては映画中に一度も失敗をしておらず、ある意味チートのような域に達しているといえる。

至ってクールに、そして完璧に仕事をこなすこの主人公は、たまたまエレベーターに乗り合わせた隣人である若妻アイリーンに思いを寄せるようになり、アイリーンとその息子、そして当初はその夫を守るために、ある仕事を請け負う。たが、それが原因となり、街を牛耳る悪者達と戦う羽目に陥る。


映画は全体的に静謐な雰囲気であり、暗いシーンの持つ質感も良い(例えるなら、滑らかなダークチョコレートのような質感である)。暗めの演出といい、物語の構図といい、いわゆるフィルム・ノワールと呼ばれるものに近いタイプの映画であるといえる。

主人公は、よくあるアクション映画の主人公のように、銃や体術の扱いに長けているわけではなく、飽くまで一流の運転技術を持つドライバーである。
しかし、一度暴力に手を染めてからというもの、自分の、そして愛するアイリーンとその息子の障害となりうるものを次から次へと徹底してぶちのめしていく。奇襲をかけられれば返り討ちにし、自ら出向いてはまた殺す。

個人的には、単なる熟達したドライバーに過ぎない主人公が、何故こうも順調に、悪をぶちのめしていけるのかといった点に疑問を感じてしまった。また、隣人のアイリーンに思いを馳せていく過程についても、描写としては弱いと感じた(心理描写が浅くあまり感情移入できないのだが、ストーリー上は、主人公が自らの身の危険を省みないほどに思いを寄せているとして観ざるを得ない)。
そういった蛋白な演出に対して際立っているのは、バイオレンスシーンの過激さである。そこいらのアクション映画ではお目にかかれないレベルで、残虐な演出がなされている。
また、”drive”という単語には、”運転する”の他に”駆り立てる”といった意味もあるが、主人公の徹底した仕事っぷりは、”何か”に駆り立てられているようにもみえる。

作中、象徴的なのは、レーシングカーの試走を行った主人公と、そのスポンサーとなるバーニーとが握手を交わすシーン。
主人公は初め、差し出された手を拒み、下記のように台詞が続く。

Driver:My hands are so dirty. 
Bernie:So am I.

レビューを見ていると、”レーシングカーのスポンサーになるという設定の必要性が分からない”といった意見があるが、おそらくこの設定は、上記の台詞のために設けられたのではないか。

この映画のカタルシスはエレベーターの中のキスシーンによってもたらされていると思うのだが、そのシーンの後においても主人公の暴走は止まらない。結局、最後には全ての障害を取り除いて決着がつくのだが、まああまりすっきりとはしない。

主人公の行動が納得感にかけていたり、伏線の用い方が物足りなかったりと、映画を観ていて気になる部分があった。控えめな演出や抑揚のなさは、つまるところ、物語の描写よりも全体的な構造に目を向けろということなのだろう。
シンプルに見えて、案外敷居の高い映画なのかもしれない。